1月22日

 ヒナ:ニコさん、法廷はこっちですよ。
 ニコ:おいよ。
 ヒナ:ああ、先生。
    白石先生!
 白石:やあ、高嶋さん。
    お久しぶりですね。
    う〜〜ん、しばらくぶりに見るとまたいいですね、
    その脚。
 ヒナ:もぅやだ、先生ったら〜。(←すっかり慣れた)
    あははははは。

白石弁護士と

 ニコ:はぁ〜、このひとが、あの。
 白石:高嶋さん、こちらのお嬢さんは?
 ニコ:オレ、出雲崎仁子ろぅ。
 ヒナ:あたしがお世話になってる、イズモザキ便利店のかたです。
 白石:これはどうもはじめまして。
    ところで高嶋さん、今日はやっぱり・・・・・・・
 ヒナ:ええ、
    今日、張山の第一回の裁判なんで、見に来たんです。
 白石:わたしもです。
    かかわりのある公判ですからね。
 ヒナ:それに、今日はこのニコさんの妹さんのリコさんていう人が
    証人でここに呼ばれてるんですよ。
 白石:なるほど〜、
    じゃあ第一回公判で証拠調べまではやる予定なんですねぇ・・・。
    しかしこのお嬢さんの妹さんとなると、
    証人は・・・小学生ですか?
 ニコ:なー、なに言ってっが?
    オレもう立派なオトナろう。
 ヒナ:あっあっ、ニコさんは私よりも、
    ・・・白石先生よりも年上なんです。
    だから妹さんも大人の人です。
 白石:そ、そうなんですか?
    これはどうも失礼しました。
 ニコ:うむ。
    くるしゅうないろう。

 白石:ともかく、この公判の担当検事は有能ですから、
    絶対、検察が張山の有罪を勝ち取りますよ。
 ヒナ:そうなんですか?
    そんな凄い検事さんが? 
 白石:なにを隠そう、ボクの兄です。
 ヒナ:・・・・・・へ、へぇ〜〜。
 白石:なんです、
    その睡眠不足のマジョリカみたいな返事は。
 ヒナ:いえ、べつに・・・
    っていうか、なんですかそれ。
 白石:もっとも、さして有能な検事でなくとも、
    この裁判で有罪判決をとるのは難しいことではないですけどね。
    なんといっても、被害者のあなたをを含めて
    目撃者が5人。警官も現場に踏み込んで、すぐに証拠が集められています。
    これで無罪はないでしょう。
    ・・・ああ、あと10分で公判が始まります。
    そろそろ法廷に入りましょう。
 ヒナ:あ、はい。


 白石:兄ももう法廷に入っているでしょうから、
    紹介しますよ。
 ヒナ:お仕事前だから忙しいでしょうし、
    ・・・別にいいですよ。
 白石:気にしない気にしない。
    (チャッ・・・キィ)
 ヒナ:先生、あの、ほんとに・・・


法廷

 白石:やあ、兄さん。
 検事:おう、どうした。
 白石:いや、僕もかかわりのある事件だから、
    傍聴しに来たんだけど。
 ヒナ:(かっ、・・・かっこいい!!)
     あの、はじめましてっ!

白石検事と

 検事:・・・・・・ああ、
    あたなはたしかこの事件の被害者の。
 ヒナ:高嶋女雛です〜。
 検事:これはどうも。
    この事件の担当検事の白石です。
    よろしく。
 ヒナ:こちらこそぉ〜。
 白石:高嶋さん、紹介しなくていいって言ってたくせに・・・・
 ニコ:そうらいねぇ。
 ヒナ:検事さん、がんばってくださいね。
    あいつらを絶ぇ〜っ対に刑務所に送ってやってくださいね。
 検事:それが私の仕事ですから、任せておいてください。
    被告人に法の裁きを受けさせてみせますよ。
    きれいな女性が被害者の事件ならばなおさらです。
    ・・・こんなことを言ったらセクハラで訴えられるかもしれませんが。
 ヒナ:綺麗だなんてそんな・・・、
    検事さん、冗談がお上手〜。
 検事:冗談などではありませんよ。
    ただ一言言わせていただくなら、高嶋さん、
    もう少し肉をお付けになったほうがよりステキになると思いますけど。
 ヒナ:えぇ〜、
    そんなことないですよ、もう♪
    今だってダイエットしているくらいなんですから。
 検事:ダイエットなどしてはいけません。
    そうですね、あと40Kgくらい肉がつくと、
    とってもチャーミングですよ。
 ヒナ:よんじゅ・・・・・・・・は?
 検事:やっぱり女性はぽっちゃりしていたほうがいいですよ。
    うん。
    ふくよかで、こう、全てを包み込む大地母神のような・・・
 ヒナ:はぁ・・・(汗)
 検事:あ、もうしばらくしたら開廷です。
    傍聴席にすわって悪が裁かれるのをみていてください。
 ヒナ:そ・・・そうします。


 白石:兄は太った女性が好みなんですよ。
    高嶋さんだと、彼にとっては痩せすぎですね。
 ニコ:デブ専ってやつらか?
 白石:よくそんな言葉知ってますねぇ。
 ヒナ:センセイの兄弟って、なんっていうか、
    みんな趣味がアレですね〜。
 白石:ぼくの弟は三つ編み&メガネフェチですし、
    兄はデブ専ですし、
    ん〜、確かに二人とも変わってますね。
    困ったものです。
 ヒナ:・・・・・・・・・・・・・センセ・・・自分は?
 ニコ:これらすけ男は・・・



(介護職員に伴われて被告人が入廷)

 ニコ:ヒナちゃん、アレみて。
 ヒナ:あ、張山・・・
 白石:被告人が入ってきましたね。
 ヒナ:久しぶりに間近で見ると、
    なんかちょっと、・・・怖いな。
 白石:大丈夫ですよ。
    2人の介護職員が常に脇にいますし、
    裁判が始まるまではロープつきの手錠でつながれていますから。
    始まったら外されますけどね。
    ・・・なんだったらぼくが手を握っていて差し上げましょうか?
 ヒナ:あ、いえ、・・・大丈夫です。
 白石:なんでしたら手じゃなくて脚でも・・・
 ヒナ:そ〜んなことしたら、ひっぱたきますよ。
 白石:・・・じゃあやめときます。

張山と千野井弁護士(実際の手錠は黒い)

 ヒナ:あれ?
    ねえニコさん。
    見て、奥に座ってるあの女・・・
 ニコ:あれってたしか、警察に電話しようとしてたオレを捕まえた、
    えと、”千野井”とか言う女らねっか。
 白石:あの女性は弁護士じゃないんですか?
    あそこは弁護士の座る場所ですけど。
 ヒナ:アレ、張山の仲間ですよ。
    共犯者。
 白石:つまり容疑者ですか?
    なぜ弁護士席に座っているんでしょうね・・・
    ちょっと兄に聞いてきましょう。


 白石:高嶋さん、わかりましたよ。
    同じ事件で起訴されているあの女性が
    この裁判の弁護をするんだそうです。
 ヒナ:ええ?
    いいんですか?
 白石:千野井という人は、弁護士会には入っていませんが、
    弁護士の資格はもっているそうですし、
    まぁ、法的には問題ないですね。
    あまり聞いたことないパターンですが、

 ヒナ:張山の弁護士が、共犯の千野井・・・
    なんだかなぁ。

開廷間近

 白石:そろそろ裁判が始まる時間ですね。
    裁判長が入ってきたらみんな立つんですよ。
 ニコ:はぁい。
 
(裁判長が入廷する)
 廷吏:裁判長、入廷。
    全員ご起立願います。

    (全員起立)
裁判長:(礼)
 廷吏:おすわりください。
    (全員着席)
 廷吏:これより開廷します。


裁判長:被告人は証言台の前に立って、こちらを向いてください。
    (介護職員に手錠をはずされた張山は、証言台の前に立つ)




裁判長:名前はなんといいますか?
 張山:張山登といいます。
裁判長:生年月日は。
 張山:昭和47年、4月4日です。
裁判長:職業は。
 張山:協栄不動産商事というところで・・・

 ヒナ:・・・ねえ、先生。
    こんなこと聞かなくても裁判所は知ってるんでしょ?
    これ、なにやってるの?
 白石:これは人定(じんてい)質問といって、
    人違いでないことを確かめる手続きです。
    こういう細かい手続きは全て
    刑事訴訟法という法律にそっているんですよ。
    ・・って、人定質問は高嶋さんの民事の裁判でもやったでしょ?
 ヒナ:そういえば・・・やったかも。
    自分のときもそうだったけど、裁判ってつくづく面倒ですねぇ。
 白石:そうですか?
    こういう儀式めいたことって、僕は好きですけどね。

裁判長:被告人は誘拐、監禁、および殺人未遂の罪で起訴されました。
    検察官、起訴状を朗読してください。
 検事:はい。
    公訴事実。起訴状について。
    被告人は平成13年6月20日午後2時30分ごろ、
    当地方裁判所駐車場において、元市立水族園副園長の鈴原正邦と共謀して
    被害者高島女雛を、被告人張山登が乗ってきた車に押し込み、
    そのまま逃走した。罪名、誘拐罪。
    続いて追起訴状について。
    被告人は鈴原正邦と共謀して誘拐した高嶋女雛を、
    鳳山の山中である、鳳町都蓮寺23198−1にある、
    堵佐株式会社社員寮の廃墟にて、拘束、監禁した。
    罪名、監禁罪
    また、被告人は鳳町都蓮寺23198−1にある、
    堵佐株式会社社員寮の廃墟にて拘禁された高嶋女雛を
    救出におもむいた宮古元人に対し、「死ね」などと言いながら、
    刃渡り15センチほどのナイフで切りつけ
    左腰部に全治1週間の怪我を負わせた。
    罪名、殺人未遂。
    以上につき、審議願います。
裁判長:被告人。
    これから被告人に質問することがありますが、
    被告人には黙秘権があります。
    答えたくない質問には黙っていてかまいません。
    また、答えたことについては被告人の有利不利に関わらず、
    法廷での発言は事件の証拠として採用されます。
    わかりましたか?
 張山:はい。
裁判長:それでは聞きますが、
    いま検察官が読み上げた起訴状に、
    どこか、間違いや事実と違うことはありますか?

千野井:張山君、勇気をもって真実を述べなさい。
 張山:わかりました。
    裁判長、
    検察官の読み上げた起訴状は
    事実と異なっています。
    俺は誘拐も監禁もやっていません。

いきなりキレるヒナ

 ヒナ:・・・・はあ???
    ちょっと、いまのが事実じゃない!
    あんた、いったいナニ言ってんのよ!
    バカすぎてみんな忘れたんじゃ・・・
 白石:高嶋さん、静かに!
裁判長:傍聴人は静かにしてください。
    審議の邪魔をしないようお願いしますよ。
 ヒナ:は、はい。

裁判長:・・・被告人。
    被告人はいま、誘拐と監禁は否定しましたね。
    では、ナイフで人を刺した件、殺人未遂についてはどうですか?
 張山:確かに僕はナイフで男の人を刺しました。
    でも検事が言うように「死ね」なんて野蛮なことは言ってませんし、
    刺したのも仕方なくやってしまったことです。
    信じてください。
裁判長:そうですか。
    弁護人、
    今の被告人の発言ついて、何か意見はありますか?
千野井:ありません。
    被告人と同じく、無罪を主張します。
    
裁判長:わかりました。
    被告人は席に戻ってください。
 張山:はい。
(再び介護職員に連れられ、席に戻る張山)




 白石:驚きましたねぇ。
    無罪を主張する余地なんてないと思いますが。
 ヒナ:言った言った「死ねぇっ!」って言った。
    あのバカは絶対に有罪ですよ。
    被害者のあたしが言うんだから間違いないです。
 白石:それじゃあダメなんですよ〜、
    裁判ていうのは。

裁判長:それでは証拠調べに入ります。
    検察官、冒頭陳述をはじめてください。
    被告人はこれから検察官の言うことをよく聞いていてください。
 検事:冒頭陳述をはじめます。

    1、被告人は、被告人の勤める協栄不動産商事が民事法廷において係争中の事件を
      一方的に解消するという自分勝手な目的に為に、
      同裁判の原告である高嶋女雛を鈴原正邦と共謀して誘拐した。
    2、被告人は鈴原正邦と共謀して誘拐した高嶋女雛を、
      堵佐株式会社社員寮の廃墟にて、拘束、監禁した。
    3、被告人は鳳町都蓮寺23198−1にある、
      堵佐株式会社社員寮の廃墟にて拘禁された高嶋女雛を
      救出におもむいた宮古元人に対し、
      刃渡り15センチほどのナイフで切りつけ、
      左腰部に全治1週間の怪我を負わせた。
      この際「死ね」などと発言をしており、
      被告人に殺意があったことを認めるものである。
    4、本件実行状況は各起訴状の通り。
      以上のことを証明するために、
      証拠関係カード甲乙記載の各証拠の取調べを請求いたします。
裁判長:弁護人は、検察官の証拠請求について何かご意見はありますか?
千野井:甲12号証、甲13号証、甲18号証の証書に対し異議を申し立てるとともに、
    甲13号証の作成者を証人として尋問することを請求いたします。
    証拠物に関しては意義ありません。
    以上です。

 ヒナ:なんかまた面倒なこと言ってるんですか?
    つーか、手続き面倒すぎてなにやってんだか
    わかんないんですけど。
 白石:こんなとこ読み飛ばしていいですよ。(笑)
    まあ、証書っていうのはつまり、
    証人がのべた証言の内容が書いてる書面です。
    「わたしは何時何分にどこで誰々を見ました」
    というようなことが書かれている訳ですが、
    これに異議を申し立てるということは、その証言内容に疑問があるから、
    その証言をした証人をここに呼んで、
    自分にもう一度取り調べさせてくれ、ってことです。
 ヒナ:あ〜、それでリコさんが呼ばれてるってわけですか。

裁判長:検察官、証人を呼んでください。
 検事:はい。


 白石:証人が入ってきましたね。
 ニコ:・・・リコちゃんだ。
 ヒナ:リコさん、さすがに緊張しているみたい。

証言台に立つリコ

裁判長:出雲崎利子さんですね。
    このカードに書かれていることを声に出して読んで、
    宣誓して下さい。
 廷吏:傍聴人の方も、全員起立してください。
 白石:高嶋さん。起立です。
 ヒナ:あ、はい。
    (ガタガタガタ・・)    
 リコ:おおっ?
    えと、これを読めばいいのね。
    じゃあ・・・
    「良心に従って真実を述べ、なにごとも隠さず
     偽りを述べないことを誓います
    ・・・でいいの?
 廷吏:証人以外は着席してください。
    証人は、いまのカードに署名と捺印をお願いします。
    (ガタガタガタ・・)    
 白石:いいですよねぇコレも、儀式的で。(うっとり)
 ヒナ:そうですかぁ?

裁判長:出雲崎さん、これから検察官がいろいろ質問をしますが、
    いま宣誓したとおりに、真実のみ述べて、
    嘘は言わないでください。
 リコ:あの〜・・・あたしには黙秘権は?
裁判長:ありませんよ。証人ですからね。
    ただし証言することによって、
    あなたや、あなたの三親等内の親族が罪にとわれるような内容の場合は、
    証言の拒否が出来ます。
    その場合は黙秘せずに、・・・つまり黙っていないで、
    証言を拒否する旨を述べてください。
 リコ:は、はあ。
    ・・・三親等もなにも、親族はお姉ちゃんだけだけどなぁ。

裁判長:では検察官、
    尋問をはじめてください。
 検事:はい。
    証人は被害者の高島女雛さんとはどういう関係ですか?
 リコ:ヒナ・・・じゃなくて、
   高嶋さんは私の会社で働いています。
 検事:従業員ですね。
    被害者が誘拐されたとき、あなたはどこにいましたか?
 リコ:ここです。ここの駐車場。
    高嶋さんが裁判のためにここに来ていたので、
    あたしも姉も、ここに一緒に来ていたんです。
 検事:一緒に。
    それはなぜでしょうか。
 リコ:高嶋さんはある連中に狙われていたからです。
    そいつ等から彼女を守るため、ボディーガードとしてついてきていたんです。
 検事:その「ある連中」とは誰のことですか?
    そのうちの誰かがこの法廷にいたら指をさしてください。
 リコ:協栄不動産商事の連中です。
    あいつ
(張山を指差す)
    あと、あいつの上司の三津川ってやつです。
    あと、鈴原っていうやつ。
 検事:被告人の張山と、その上司の三津川、
    それに水族館の前の副園長の鈴原、ですね。
 リコ:そうです。
 検事:なぜ、被害者のボディーガードをする不必要があったのか、
    述べてください。
 リコ:なぜって、それは高嶋さんがまえに三津川たちに誘拐されかけたからです。
 検事:それは2001年5月18日に起こった誘拐未遂事件のことでしょうか。
 リコ:ええ、そうです。
    誘拐されて殺されるところだったと聞いています。
 検事:この事件に関しては、甲15号証の、被害者高嶋女雛の調書をごらんください。
    では高嶋女雛さんが6月20日に
    この裁判所の駐車場で誘拐されたときのことをお聞きします。


   ・・・この調子で、検事さんのリコさんに対する質問が続いた。
   まあ、この間の日記に書いてあることばかりだから、
   ここでは省略します。

裁判長:ではつづいて、弁護側の反対尋問をどうぞ。
千野井:はい裁判長。

証言するリコ

 リコ:あらオバさん、御久し振り。
    こんなところで会うとはねぇ。
千野井:(無視)では、事件のあった日についてお聞きします。
    あなたは高嶋女雛さんのボディーガードとして、
    この裁判所にきていたとおっしゃいましたね。
 リコ:うん。
千野井:以前の鈴原副園長がやったとされる誘拐未遂事件のあと、
    実際に高嶋さんが協栄不動産商事の者に襲われるといったことはあったのですか?
 リコ:いや、でも彼女の家に何度も無言電話があったり、
    家の周りをうろついてる奴が・・・
千野井:もう一度うかがいます。
    襲われたことはなかったのですね?
 リコ:・・・・・・ええ、そう。
    襲われたことはなかった。
千野井:しかし、本件ではついに襲われ、高嶋さんは誘拐されてしまった、
    ということでしょうか。
 リコ:そう。
    あそこにいる張山と、鈴原に襲われたんだよ。
    さっきも言ったけど
千野井:なるほど。
    弁護人はこれを事実と認めるわけではありませんが、
    とりあえずそういうことにして話をすすめます。
 リコ:・・・・・・・・・・・・・なに言ってんだよ。
千野井:さて、あくまで仮定ですが、
    高嶋さんは誘拐されました。
    そのときあなたはどうしましたか?
 リコ:すぐに車で追跡したよ。
    高嶋さんの友達の宮古という人が誘拐現場を目撃していて、
    その彼の車で追いかけたんだ。



千野井:その宮古という人の車の車種と、
    追跡したときに同乗していた人を教えてください。
 リコ:車は白の三菱パジェロ。
    乗っていたのはあたしと姉と、
    宮古と、その彼女の寺月たまきさんの四人。
    車はあたしが運転してた。
千野井:その車のナンバーはわかりますか?
 リコ:・・・いいえ。
千野井:そうですか。
    そして追跡ののち、鳳町都蓮寺23198−1にある、
    堵佐株式会社社員寮の廃墟にたどりついたわけですね。
 リコ:そう。
千野井:誘拐犯を追跡とは、また勇敢なことですね。
    しかし、それは本当のことなのでしょうか?
 リコ:なんだって?
千野井: では裁判長、あらたに証拠を提出します。
    これは当日、証人らによる警察への通報によって、
    道路封鎖をしていた交通機動隊白バイ隊の報告書と、当日の交信記録、
    それに、証人が運転して犯人を追跡したという車両の登録証の謄本です。
    これによりますと、件の白のパジェロのナンバーは、「ら5464」となっています。

    いっぽう、白バイ隊の報告書には事件当日、
    これと同じナンバーの白の三菱パジェロに対して、
    挙動不審のため赤色回転灯をつけ停止を求めたが止まることなく、
    猛スピードで逃走された、とあります。

    出雲崎さん、あの事件当日、犯人を追跡中に白バイに追跡されて
    停止を求められた覚えはありませんか?



 リコ:あ〜あ〜・・・ありますけどぉ・・・・
千野井:しかし止まらずに逃走した、
    そうですね。
 リコ:・・・・・・・
 検事:異議があります。
    証人は証言によって自分の刑事訴追を受け、
    または有罪判決を受けるとおもわれるような
    証言は拒否できるとされているにもかかわらず、
    弁護人は証人に対してそのような質問を・・・
千野井:この場合は、現行犯でなければ刑事責任は問えない事例です。
    ・・・従ってここで今、証人が証言をしても罪に問われることはなく、
    証人が証言を拒否する正当な理由はないと考えます。
裁判長:そうですね、検察側の異議を却下します。
    証人は、弁護人の質問に答えてください。
 リコ:・・・はい、
    あの、白バイから逃げました。
    誘拐犯人を追跡中だったものですから。
千野井:ほう、そうですか。
    犯人を追跡中だったと。
    それでは・・・
    こちらはその停止を求めた白バイ隊員から取った調書です。

    巡査は、
    「追跡していた車の前には他の車両はまったく見当たらなかった」
    としています。
    証人、これはどういうことでしょうか。
    出雲崎さん、あなたは誘拐犯の車を追跡していたのではないのですか?
    あなたは本当に誘拐犯を追跡していたんですか?
 リコ:前の車がいなかったって、そりゃそうだよ。
    だって、追跡していたのはおねえちゃんの千里眼で・・・・・・・・・
千野井:・・・・・・は?
    どうしました?
    つづけてください。
 リコ:・・・・・ええと・・・・・・・・・・・その、
    白バイ隊員の思い過ごしじゃないですか?
    追跡していなければ、あの廃墟まで追いかけていけたはずないし〜。
千野井:なるほど。
    白バイ隊員の供述内容のほうに間違いがあると言うんですね。
    わかりました。

相談する3人組


 白石:高嶋さん、あの証人はどうしたんですか?
    急に言葉を濁して。
 ヒナ:だって、実際に追いかけていたわけじゃなくて・・・ねぇ。
 ニコ:オレの超能力で誘拐犯のこと追いかけていたすけのゥ。
 白石:ちょうのうりょくぅ?
    冗談でしょう。ほんとのこと教えてくださいよ。
 ヒナ:本当のことなんですけど〜。
 ニコ:マジらよ。
    オレすごいんらよ。
 白石:・・・はぁ。

千野井:次の質問ですが、証人がいまなさっているお仕事ですが、
    どういうお仕事でしょうか。
 リコ:本業は便利屋で、お客さんの要望にこたえて、
    部屋の掃除からゴミ捨て、買い物代行、ビデオ撮影、
    家具や家の修理保全などなど、特殊な知識や免許がいらない、
    面倒な雑用を全て引き受けてます。(つい営業口調)
    ただ現在は、行方不明になったペットの捜索がおもな仕事です。
千野井:なるほど。
    いわゆるペット探偵ですね。
 リコ:まあ、そうです。
千野井:では証人に見ていただきたい雑誌があります。
    え〜、これは去年の1月12日に発売された、
    いわゆる写真週刊誌であるところの「フォーガス」という雑誌です。
 リコ:一月・・・?
    あっ!
 ヒナ:・・・それって、確か、あたしが記事に載っちゃって、
    リコさんところをやめるきっかけになった雑誌・・・
千野井:このページを見てください。

フォーガス1月12日号

   「高嶋園長の娘の気になる就職先」
   「顧客は女性限定。超能力ペット探偵の実力と真偽」
    これ、見たことありますか?
 リコ:・・・ああ・・まあ。

千野井:記事によれば、高嶋元園長の娘、
    つまり今回の被害者とされている高嶋女雛さんが勤めているペット探偵が
    どうも妙なところである、ということです。
    ちょっと読んでみましょう。
    「そのやり方は極めててユニークなもの。
    この自称超能力者のスタッフが客の家におもむき、
    客の顔に手を当てるだけでたちどころにペットの居場所がわかるという。
    早いときは1時間ほどでペットを見つけることもあるそうだ。
    まるで最初から居場所がわかっていたかのようだったと、
    以前この便利屋にペットを見つけてもらったSさんは語る。」
    ・・・・・・あら、超能力者ですって。
    高嶋女雛さんが勤めていて、便利屋兼ペット探偵、
    出雲崎さん、これはあなたのやっている仕事についての記事でしょう?
 リコ:・・・そ、それがどうかしたの?
千野井:出雲崎さん。
    「これはあなたのやっている仕事についての記事でしょうか?」
    とお聞きしているんですよ。
    質問には「はい」か「いいえ」で答えてください。
 リコ:・・・はい。
千野井:さきほど朗読した部分ですが、
    「この自称超能力者のスタッフが客の家におもむき、
    客の顔に手を当てるだけでたちどころにペットの居場所がわかるという。
    早いときは1時間ほどでペットを見つけることもあるそうだ。」
    これはどうですか?
    でたらめでしょうか。
    それとも客観的に事実を述べているのでしょうか。
 リコ:デタラメじゃないけど・・・
    まるでウチの仕事がインチキみたいな書き方じゃない。
    こういう雑誌は娯楽を求める読者に、
    センセーショナルで刺激的な記事をあたえることが・・・

追い込む千野井


千野井:ほう、インチキではないと。
    ではどのようにしてペットを探すんですか?
    地道に探すのですか?
    1時間やそこらで見つかるくらいなら、
    飼い主がとうに見つけているでしょう。
 リコ:だから・・・その・・・わかるんだよ。
    ペットの居場所が。
千野井:まあ、超能力で?
    お客さんお顔に手を当てるだけで?
 リコ:そうだよ!超能力を使うんだよ!
    ・・・それを信じる信じないはあんたの勝手だけどね。
千野井あなたに言われなくても、信じる信じないの判断は、
    こちらで勝手にさせていただきます。
    もちろん、信じられませんね。
    この雑誌も証拠として法廷に提出します。
 
  (廷吏に証拠を渡す)

    ・・・裁判長、長々と失礼しました。
    このように、証人は超能力を使うなどと謳った
    詐欺まがいの商売で生計を立てており、
    また証言のように、誘拐犯の車を実際には追跡しておりません。
    証人の証言内容は不審な点があり、
    証人自身の素行もかんがみると、この証言は
    被告人の有罪を立証しえるものではないと弁護人は主張します。

    被告人の無実の主張の通りであるならば、
    本件はすべて証人等による狂言であり、
    誘拐事件自体がそもそも無かったものといえます。
    被告人である張山氏は、実は証人らによる謀略の犠牲者、
    被告人こそ被害者であると考えます。
    以上で、証人の尋問を終わります。
 リコ:はあ!?
    ちょっとあんた!!
    いいかげんなことばっかり言ってまとめないでよ!
    人の話聞きなさいよ!

裁判長:証人。
    尋問は終りました。
    もうこのまま帰っていただいてもいいですし、
    傍聴席で裁判を傍聴していてもいいですよ。
 リコ:だってさぁ!
 廷吏:こちらに。



 リコ:う・・・・・・・・・・・ぅわかったわよ。

 ヒナ:おつかれさま。
 ニコ:リコちゃん、こっちこっち。
 リコ:おねえちゃぁん、あたし悔しい。
 ニコ:ヨシヨシ。




裁判長:さて検察官。
    提出する証拠は以上ですか?
 検事:ええと・・・裁判長、
    1〜2分、時間をください。
裁判長:いいでしょう。
    わかりました。
    
 ヒナ:・・・検事さん、こっちに来るけど?
 白石:そうですね。
    これはもしかしたら・・・

引っ張り出されるヒナ

 検事:すみません、高嶋さん。
 
ヒナ:はい。
 検事:証人として証言してもらえませんか。

 ヒナ:・・・は、・・・はい?

 白石:兄さん、ヤバイのかい?
 検事:ああ。どうも雲行きが怪しい。
    これを逃すと、あとは被告人質問と最終弁論ときて判決だ。
    こちらが証拠を出すチャンスは今だけだからな。
    だから、ここで何とか裁判長の心証をこっちに引っ張りたい。
 ヒナ:あの、どーゆーことになっているのかイマイチよくわかんなくて・・・
 検事:あれでは証言能力を疑われますよ。
    漫画じゃあるまいし、超能力でペットを探すとか犯人の車を追跡したとか、
    そんなことあるわけ無いじゃないですか。
    出雲崎さんの証言は信用できないと、裁判長に判断されかねません。

    彼女の証言が信用できないとなれば、
    それと同じ内容の宮古さんや彼女のお姉さん、寺月さんの証言にも、
    裁判官は当然疑問をもちます。
    困ったことに、収集されている物的証拠のほとんどは
    証言を裏付けるものばかりですから、
    証人の証言があやしいとなれば、
    物的証拠の意味も弱くなってしまう。
 ヒナ:でも超能力の話は本当なのに〜。
 検事:あなたまでそんなことを・・・
    とにかく、証言してください。
    その、・・・超能力とかの話は抜きで。
 ヒナ:えぇ〜
 検事:高嶋さんはほかの証人と違って誘拐された立場の証言が出来ますから、
    追跡に関することであの弁護士に突っ込まれることはないでしょう。
    とにかくありのまま、裁判長に話して欲しいんです。
    そうでないとこの裁判、・・・たぶん負けます。
    被告人は証拠不十分で無罪です。
 ヒナ:・・・わ、わかりましたよう。
 検事:ではお願いします。
    裁判長、本件の被害者である高嶋女雛さんを証人として、
    申請します。
裁判長:弁護側はこれについてご意見は?
千野井:ハイ、しかるべく。

裁判長:では申請をみとめます。
    証人は宣誓をしてください。
 廷吏:全員ご起立願います。
    (ガタガタガタ・・・)
 ヒナ:「・・・良心に従って真実を述べ、なにごとも隠さず、
     偽りを述べないことを誓います」
     ここに署名と捺印ね。
     あ、でも印鑑なんて持ってきてないんですけど。
 廷吏:印鑑がなければ拇印でもかまいませんよ。
 ヒナ:じゃあそうしときます。


証言台のヒナ


 検事:ではさっそくお聞きします。
    あなたが誘拐されたときのことですが、
    誰に、どのように誘拐されたのでしょうか。
 ヒナ:鈴原・・・もと副園長と、あそこにいる張山っていうやつにです。
    わたしがここの裁判所の裏の駐車場にいるときに、
    いきなりおそいかかってきて。
 検事:具体的には。



 ヒナ:張山があたしを後ろから羽交い絞めにして、
    なにか薬っぽい変な匂いのする布を口に押し当ててきて・・・
    そのとき鈴原さんはあたしの前にいました。
    そのあとすぐに気を失っちゃったので、
    どうやってあの廃墟まで来たのかはわかりません。
 検事:なぜ誘拐したと、犯人達は言っていましたか?
 ヒナ:はい、あの人たち協栄不動産商事に対してあたしが起こした裁判が
    理由だと言っていました。
    今はこれ、審議が止まってるんですけど。
 検事:その裁判とはどういう?
 ヒナ:あたしが協栄不動産に売った土地があるんですが、
    そのときの売買は不当なものなので無効だから、
    土地を返してくれっていう裁判です。
    あいつらはその土地を返したくないから、あたしを誘拐して殺そうとしたんです。
 検事:わかりました。
    では誘拐されたあとのことについてお聞きします。
    
 リコ:ねえ弁護士さん。
    これってみんな警察で聞かれたことばかりじゃない。
    何でまた繰り返しこんなところで聞かれるの?
 白石:弁護側は「この誘拐事件自体がなかった」として、
    無実を主張しているんです。
    大胆な話ですが、こちらの証言に説得力がないので・・・
    ・・・あ、失礼。
 リコ:いや、いい。
    それで?
 白石:こちらの証言に説得力がないので、
    逆に向こうの無実の主張に真実味が増します。
    しかし、高嶋さんは誘拐された本人ですから、
    彼女の証言が矛盾無く真に迫っていれば、
    弁護側の無実の主張は怪しくなる、ということです。
    だから、高嶋さんにはがんばってもらわないと。

 検事:気がついたら縛られていたんですね。
    それはどのように。
 ヒナ:座らされてて、足首と、あと後ろ手に手首を縛られてました。
 検事:その縛っていたロープですが・・・
千野井:異議あり。
    証人は”ロープ”で縛られていたなどと一言も言っていません。
    検察側の誘導尋問です。
裁判長:異議を認めます。
    検察官は慎重に尋問してください。
 検事:失礼しました。
    高嶋さん、これを見てください。
    この甲第23号証の証拠品のロープは、
    あなたを拘束していたものですね。
 ヒナ:えっ?
    ああ、たぶん・・・
    でも、・・・すいません。ロープまでは覚えてないです。

 リコ:嘘でもいいから「そうです、それです」って言っておけばいいのに。
    ヒナはノリが悪いよね。
 白石:それはいけませんよ。
    気持ちはよ〜くわかりますが。
 ニコ:なんかヒナちゃん、却ってボケツろう。
 白石:やはり準備不足の尋問は危険ですよ。

 検事:そ・・・・・・そうです・・・か。
    ええっと、事件直後の取調べにおいて、
    証人はこれを自分を拘束していたロープであると認めています。
    この証人を縛っていたロープは
    現場となった廃墟に以前からあったもので・・・・・・
千野井:異議あり。
    証拠関係カードによればその甲第23号のロープは、
    警察に引き渡されるときに被告人や同僚の三津川氏を縛っていたものです。
    証人を縛っていたものではありません。
 ヒナ:だから〜、あたしを縛っていたロープを使って、
    あいつらを縛ったの!
    同じなの!
千野井:さきほど証人は、
     ロープまでは覚えていないと言いましたよね。
 ヒナ:思い出したのよ!
 検事:あの、これで尋問を終わります。
 白石:・・・だめだこりゃ。

裁判長:では反対尋問をどうぞ。
千野井:はい、裁判長。


千野井対ヒナ

千野井:では証人にお聞きします。
    証人は被告人が勤める会社と民事裁判で係争中ですね。
    先ほどの証言にもありましたが、
    なんでも土地の売買を無効にしたいとか。
    これはなぜでしょう。
    協栄不動産に売った時の価格は路線価格より高かったくらいですし、
    問題はなさそうですが、なぜ無効に?
 ヒナ:それは、
    あの山はあたしの父が持っていた山で、
    父は三津川たちにあの山を売ろうとはしていませんでした。
    だからです。
千野井:しかし、あなたは一度は売ったのですよね。
    それはなぜですか。
 ヒナ:売ったときは何も知らなかったんです。
    父を殺したこいつらが山の買い手だってことを。
    あの山を手に入れるために、あいつらは父を殺したんです。
千野井:すみません裁判長、
    説明いたします。
    高嶋女雛の父親である高嶋元園長はダイビング中の事故で死亡しており、
    死因は窒息死です。これが警察の公式見解で、彼は殺されてなどいません。
    今の証人の発言は根拠の無いもので、
    あくまで想像力の逞しい証人の作り話であります。
 ヒナ:根拠も何も、鈴原さんがそういったの!
    それに誘拐されて捕まってるときに、
    三津川ってやつも、自分がやったって言った!
    そのとき張山もすぐそばにいたし、それにあんたもいたけど、
    別に否定しなかったじゃない。
    知ってるんでしょ?
    あたしのお父さんを殺したって・・・
千野井:被告人も三津川氏も鈴原氏も、
    そのような発言をしたとは認めていません。
    私も聞いた覚えがありませんね。
 ヒナ:言った!
千野井:(無視)尋問に戻ります。
    しかしおかしな話ですね。
    なぜ被告人達はあなたを誘拐して殺してまで、
    あの山を自分達のものにしたがったのでしょう。
    たいした価値の無い山と思いますが。
 ヒナ:それは元々あんたが調べてきたことなんじゃないの?
    
あたしは誘拐されて聞かされるまで知らなかったけど、
    あの山には大きな金の塊が埋まってるんでしょう。
    よく知ってるくせに。
千野井:そう。そのとおりですよ、高嶋さん。
    裁判長、尋問は以上です。
 ヒナ:・・・・・・・・・え、終わり?
    もう?
裁判長:証人は席に戻ってください。
    もう帰っていただいてもいいですよ。
 ヒナ:・・・はあ。



裁判長:検察官、証人は以上でよろしいですね。
 検事:証人は・・・以上です。
 ヒナ:・・・・・・・・・・・・・・・・・・

裁判長:では証拠調べは以上で。
    次は被告人と弁護人の立証です。
    弁護人は立証計画を聞かせてください。
千野井:はい。まず被告人の上司で、
    本件と同様に高嶋女雛誘拐の罪に問われている
    三津川渡(わたる)容疑者を証人として申請します。
    あとは被告人尋問だけです。
裁判長:検察側のご意見は?
 検事:同意します。
裁判長:では証人をここへ。
(入ってくる三津川)

 ヒナ:これで鈴原元副園長以外の全員が
    そろったね。
 リコ:うん。

(手錠をはずされ、証言台に立つ三津川)
 廷吏:ご起立願います。
三津川:「良心に従って真実を述べ、なにごとも隠さず、
     偽りを述べないことを誓います」
 廷吏:着席してください。
(ガタガタガタ・・)





千野井:それでは単刀直入にお聞きしますが、
    三津川さんは高嶋女雛を誘拐したとか、
    そのようなことに関わりましたか?
三津川:いいえ。
    まったく身に覚えのないことです。
    全ては高嶋女雛らによる狂言で、私たちはその被害者です。
    また、高嶋元園長を殺したなどと、根拠の無い中傷を受けておりますが、
    それも身に覚えのないことです。
 ヒナ:何いってんのよ、嘘ばっかり(ブツブツ)
千野井:高嶋女雛と係争中の民事裁判いついてですが、
    これはあなたから見てどうですか?
三津川:はい、正直迷惑しております。
    山を買ってくれという話だったので買ったら、
    こんどはやっぱりそれは無かったことにしてくれと・・・。
    土地の売買はその辺で消しゴムを買うのとはわけが違うのです。
    登記にしても、契約にしても、
    手続きに非常に手間とコストがかかる。
    それが終ったあとで「なかったことにしてくれ」
    といわれても困るわけです。
 ヒナ:自分に都合いいことばっかりいわないでよ(ブツブツ)
千野井:それはお気の毒ですね。
    それと、先ほど高嶋女雛さんを証人尋問したさいに
    あの土地に金の塊が埋まっているという話が出たのですが、
    これについてはどうですか?
三津川:私はまあ、・・・半信半疑ですな。
    長い間土地の取引を生業にしていますが、
    そんなうまい話は聞いたことがない。
    いや、掘ってみて結局何も出なかった、という話なら
    いくつも聞いたことがありますが。(笑)
 ヒナ:何いってんのよ。自信満々だったじゃないの(ブツブツ)
 白石:・・・高嶋さん、だんだん声が大きくなってますよ。
三津川:しかしその財宝とやらは、千野井先生ご自身が調査されたことだとか。
千野井:はい。
    私が以前TPCに籍を置いていたさいに、あの辺一帯の地下調査をして、
    そのときにそういう反応が出ました。
    調査にご協力いただいたお礼をいうために、
    当時あの土地の持ち主だった高島園長の家に伺ったおりに、
    高島園長に、あの山に財宝が埋まっているかもしれない
    ・・・ということをお話した覚えがあります。
 ヒナ:いったいなにを・・・(ブツブツ)
    
はぁ!?
千野井:高島園長はご自分がお持ちの山に財宝が眠っているということに
    いたく興味をもたれておりましたわ。



 ヒナ:ちょっと待ってよ!
    嘘つくのもいいかげんにしなさいよ!
    あんたはうちになんか来ないで、まっすぐ三津川んとこに行ったんでしょ!
    あの廃墟でそう言ったじゃない!
    よく平気な顔でそうしゃあしゃあと・・・(もがもが)
 白石:高嶋さん、落ち着いて。
    ここは法廷ですよ!

千野井:あなたの尋問はもう終ったのよ、高嶋女雛さん。
    あとはそこで黙って見ていなさい。
    あなたにできることは、もうそれだけなんだから。
    フフフ・・・。
 ヒナ:あっ!
    だからさっき、財宝の話が出た瞬間に尋問を終らせたのね!
    汚いじゃない!
裁判長:傍聴人!
    たびたび言いますが、
    法廷でこれ以上騒いで審議の邪魔をすると、
    こんどこそ退廷してもらいますよ。
    あなたは本件の被害者だから、これでも大目に見ているのです。
 ヒナ:ぁう・・・・・・は、はい。
裁判長:尋問を続けてください。
千野井:では再開します。
    三津川さん、高嶋女雛誘拐事件があったとされる時間、
    あなたは何をしていましたか?
    またなぜ、あの廃墟で警察に逮捕されるようなことになったのですか?
三津川:あの日はですね、
    あそこにいる高嶋さんから電話があったんです。
    「裁判について話がしたいので、昼過ぎにこの場所に来て欲しい。」
    と言われました。この「裁判」というのは、
    彼女が訴えてきている民事裁判のことです。
 ヒナ:あたしはそんな電話した覚えは・・・・(モガモガ)
 白石:(高嶋さ〜ん。しーーっ!)
三津川:その裁判の弁護をお願いしようとしていた千野井先生も
    ちょうどその場に居合わせましたので、
    私は千野井先生と部下の張山君と一緒に、
    高嶋女雛さんが指定した場所に、車で出かけたのです。
    着いてみて、そこが廃墟と知ったときは驚きました。
    そして張山君をひとり車に残して、
    私と千野井先生の2人が廃墟に入っていくと
    突然後ろから殴られて・・・。
    気がついたら縛られて床に転がされていました。
    見ると、鈴原元副園長もいっしょに縛られていて。
千野井:そうでしたね。
     鈴原さんは警察から逃れて、あの廃墟に隠れていたそうですね。
三津川:そうらしいですね。
    そして、そばにはあの高島女雛をはじめ、
    あの傍聴席に座っている二人と・・・
千野井:”出雲崎姉妹”ですね。
三津川:それにここにはいませんが、男が1人、女が2人、
    立ってこっちを眺めていました。
千野井:その男は”宮古元人”、女性のうちの1人は”寺月たまき”ですね。
    この5名は検察官が被害者として事情聴取しています。
    残る女性一人はいまだ身元が割れていません。

 ヒナ:残る一人って、うるるんのことだ・・・。
 リコ:よくもまあこんなデタラメばかり。
    先生さん、こんなの通るの?
 白石:なんともいえません・・・
    もし、こっちの話が筋が通っていると裁判長が判断したら・・・・
三津川:そのとき、車に残っていた被告人の張山君が、
    車につんであった登山用のナイフを持って
    勇敢にも、一人で私たちを助けにきてくれてたんです。
    そして私達を助けるために、宮古という男性を刺したのです。
    あれは仕方がなかったと思います。
    結局は張山君も連中に捕まり、
    今言った6人から殴るなどの暴行を受けました。
千野井:被告人はそのとき、鞭打ち症になったのでしたね。

 ニコ:それ、たまきちゃんのビンタ1発ろぅ。(笑)
 リコ:すっげーい〜気味。
三津川:裁判長。
    ことの次第はそういうことです。
    高嶋女雛はおそらく、父親から山に眠る財宝の事を聞いたのでしょう。
    それに目がくらんだ彼女は仲間と共謀して、
    私たちを誘拐犯に仕立て上げたんです。
    そうすれば、あの山は自分のものになり、財宝も手に入ると思って。
    ですから裁判長、
    私たちはこの人たちの罠にはめられて、今ここにいるんです。
    私たちを信じてください。
    ・・・被告人の張山君は無罪です。
    いや、むしろ彼こそがこの事件の被害者です。
    どうか、正しい法の裁きをよろしくお願いします。
千野井:尋問は以上です。

裁判長:では私から証人に質問しますよ。
    ええと、三津川さん。
    高島女雛さんは父親から相続した山に財宝が埋まっていると、
    知っていたとおっしゃるんですね?
    ではなぜ、あなたに売るようなことをしたんでしょう。
    売らなければ、裁判を起こしてまで取り返すなんてことを
    せずにすんだと思いませんか?
    不自然ですよね。



 ヒナ:そうそう!そうだよね!
    裁判長ナイスツッコミぃ・・・(モガモガ)
 白石:しーーーーっ!

三津川:私は彼女の事情までは知りません。
    もしかしたら、死んだ父親の書き残した手紙か何かを見つけて、
    山を売ったあとで財宝の事を知ったのかもしれませんね。
    それで慌てて私達から取り返そうと。
裁判長:なるほど。
    高嶋女雛さんは、あなたが彼女の父親を殺した、
    と先ほど証言していましたが、
    これもあなたの言う陰謀の一端なんでしょうか。
三津川:それも私の知るところではありません。
    私に言えるのは、
    私が人を殺したなどというのは、事実無根の濡れ衣だということです。
裁判長:では、父親が事故で死んだのではないという
    証拠品であるダイブコンピューターを、
    彼女が公園で壊されたときのことですが、
    これはどうでしょう。
    あなたが壊したと彼女は言っているようですが。
三津川:いいかげんにしてくださいよ、裁判長。
    彼女は妙な妄想を抱いているんではないんですか?
    超能力でペットを探す仕事についているくらいだから、
    何を言い出しても不思議はありませんよ。
 ヒナ:・・・ちょっと!?(モガモガ)
 白石:(しーーーーっ!
     静かに。何度言ったらわかるんですか〜!)
裁判長:なるほど。
    どうもありがとうございました。
    証人は・・・そうですね。
    よろしければ千野井弁護士のところへ。
三津川:はい。


裁判長:では被告人尋問に入ります。
    被告人は前に。
 張山:はい。
(再び介護職員に伴われて前にでる張山)



裁判長:被告人は今回のことについてどう思いますか?
 張山:僕は、やましいことは何もしていません。
    しかし、いくら三津川さんや千野井先生を助けるためとはいえ、
    ナイフで人を刺すというのは、もしかしたらやりすぎだったのかもしれない、
    何とか話し合いで解決できたのではないかと、今では後悔しています。
裁判長:そうですか。
    被告人もまた三津川氏と同じく、高島女雛さんから
    父親を殺した犯人と名指しされていますが、これはどう思いますか。
 張山:無実の人を罪に陥れようとするなんて、信じられません。
    ああいう迷惑な人も世の中にはいるんだな、と思いました。
裁判長:それと、三津川氏にも聞きましたが、
    高嶋さんが言うには、
    ダイブコンピューターをあななたち二人に壊されたということですが、
    これはどうでしょうか。
 張山:そんなの濡れ衣もいいところですよ。
    おおかた、襲われたときのショックで、
    見てもいないものを見たと思ってるんじゃないですか?
    ひどい目にあってお気の毒だと思いたいのですが、
    それを僕らのせいにされたんでは、同情する気にもなりません。
 ヒナ:ちょっと待ってよ!
    なんで・・・(モガモガ)
 白石:(静かにしてくださいよ、たかしまさん。)
 ヒナ:ちょっ・・・先生、放してよ。




 ヒナ:先生、違うの、はなして下さいよ。
    ・・・あの、
すいません裁判長!
    な、・・・何で知ってるんですか?
    あたしあの晩のことは、警察にも、誰にも話してないんですけど。
    あの晩のことを知ってるのは、襲ってきたこいつと三津川と・・・
    あのとき”あたしを助けてくれた人”だけ、なんですよ?
 張山:なにっ?
裁判長:そうですね、高嶋さん。
    つまり三津川、そして張山。
    調子に乗って、他の誰も知らないはずのあの晩のことまでしゃべったのは
    ダイブコンピュータを壊したのは自分達だって自白したようなもんよ。
    法廷での発言は全て証拠となるわ。
    あんたたち、語るに落ちたわね。
 白石:・・・・・・「もんよ」??・・・・・「なるわ」???
 ヒナ:・・・・・・・・・・・・・・・・・・

千野井:裁判長、この高島女雛は
    審議の邪魔になるので退廷させるべきかと・・・
裁判長:うるさいわね!
千野井:・・・は???
 検事:・・・さ、裁判長?
 ヒナ:あ・・・あ・・・・あ・・・・うっそぉ・・・




裁判長:あ〜あ〜もう!
    ちょっとは反省してるかと思えば、
    黙って聞いてりゃ最初から最後まで嘘八百!
    普通に裁判やって終らせようと思ってたのに、いいかげんうんっざりだわ。
    
やってらんないわよ!
    ・・・なんだってぇ?
    罠にはめられましたぁ?
    私たちは被害者ですぅ?
    騙されましたぁ?
    
ふざけるのもいいかげんにしなさい!
    そんなゴタクで地獄の閻魔様は騙せても、
    このあたしは騙せないわよっ!

 ヒナ:リコさん、見て、
    あの裁判長。
    ・・・うるるんだよ。
 リコ:ああ、でも、・・・・声が男だよ?

   (ババッ!!)

 
    (ダン!)
裁判長:三津川、張山、そして千野井。
    あの子の父親を殺したこと、山に財宝があることを確信してること、
    証拠隠滅の為に汚いマネをしたこと!
    あんた達が誘拐したヒナの前でべらべらべらべら告白するのを、
    私はしっっかと、この両の耳で聞きとどけてるのよ。

三津川:あんた、・・・あのときの女なのか?
千野井:そんな・・・
裁判長:その通りよ。
     忘れっぽいあんたたちもどうやら思い出したようね。
     あんたたちが無い知恵絞って作り話で罪を逃れようったって、
     この私が法を司っている以上、そんなことは許さないのよ。
    
さっさと観念して、お縄をちょうだいしなさい!
 リコ:・・・遠山の金さんかよ。
 ヒナ:うるるん、カッコイイ♪
 ニコ:かっこいいろぅ〜
 リコ:きみたちなぁ・・・。



裁判長:当法廷は、被告人および弁護側の証言には、
    いっさいその証拠能力を認めない。
    また、罪状に法廷侮辱罪および偽証罪を加えるものとする。
    なお、判決(さた)は次回公判で申し渡す。
    そのほう、覚悟して待てい!
    弁護士、検察官双方、
    次回公判期日までに最終弁論の用意をしてくるように。
 検事:ははっ!
裁判長:検察官、来月24日の午後イチでいいかしら。
    予定あいてる?
 検事:だ、大丈夫です。
裁判長:では次回公判は、2月24日午後1時30分より、この法廷で行うこととする。
    被告人、しかと聞き届けたわね!
 張山:・・・・・・あ・・・はぃ 
裁判長:これにて閉廷いたす。
    
ものども、ひったてい!
介護職員:ははっ。
(手錠をかけられた上で、介護職員に伴われて張山、三津川、千野井が出廷)



裁判長:ふう〜・・・
 ヒナ:うるるーん!
裁判長:・・・ヒナ。




 漆木:ごめんなさいヒナ、私が男だってこと黙ってて。
 ヒナ:うそ〜、じゃあやっぱりそうなの〜?
    でも、だって、胸あったじゃない!
    声も言葉づかいも女っぽかったし・・・
 漆木:これは豊胸したの。
    いまは目立たないようにコルセットをつけてるけど。
    声色や言葉づかいは鍛錬の結果っていうか・・・。
 リコ:・・・てか、そういう問題じゃないでしょ。
    なんなのよいったい。
    あんた裁判官だったの?
 漆木:そうよ。
 ヒナ:あたしをあのとき助けてくれたのは、こうなることを予測して・・・
 漆木:ま、まさか。
    女の子が襲われてるんだもん。
    助けなきゃ男がすたるわ。
 リコ:「男がすたる”わ”」っていわれてもなぁ・・・。
 漆木:あのときヒナにいったのは本当の気持ちよ。
    ほおっておけないってね。
    だからあなたに付き合ったのよ。
    あ、でも漆木マヤは女装してるときの偽名ね。
    本名は〜、これ。
 ヒナ:黒崎真矢徒判事・・・さん?
 漆木:でもいいわよ、うるるんで。
 リコ:なんだよ、その偽名ってのは。
 漆木:せっかく女装してるんだから、
    もう一人の自分用の名前って必要でしょう。
 リコ:女装ってなぁ・・・
    あ、もしかして山奥の町役場に登記簿を見に行ったときって
    あんた男の格好で行ったの?
    実は、役場の人に「あの日そんな女は来なかった」っていうの聞いて、
    あたしあんたに不信感を抱いてたんだけど・・・。
 漆木:ああ、女装の服は皮とかエナメルしかないから、
    役場にはしかたなく男装で行った筈よ。

 ヒナ:ねえ、うるるん。
    あいつらどうなるの?
    有罪?
 漆木:それは職務上の秘密だから、判決を出すまでは言えないわ。
    ・・・まあ、「言わなくてもわかるでしょ」くらいは言えるけど。
 ヒナ:それ言ってるのと一緒だよ〜。
 漆木:ねえ、あの、ヒナ。

 ヒナ:なあに?
 漆木:私、男っていうか、オカマだってばれちゃったけど・・・
    これからも友達でいてくれるかな?
 ヒナ:な・・・何いってんのよ。
    そんなのあたりまえじゃん!
    うるるんはあたしの大親友だよ。
    なんでそんなこというの?
 漆木:・・・ごめんなさい。
    でも、よかった。
    じゃあ、次の審議があるからわたしはこれで。
 ヒナ:うん。
    お仕事がんばってね、うるるん!




 リコ:・・・ねえ、お姉ちゃん。
 ニコ:なに?
 リコ:もしかして、このシリーズって「これ」がやりたかったのかな。
    1年もかけて。(笑)
 ニコ:あー、オレもそうだと思うろゥ。
 リコ:・・・・・・じゃあ、アホらしいし帰ろうか。
 ニコ:うん。



 
     
 
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