6月20日(水)
 晴れ

   P.1

たまき:もー引っ張らないでよう。
 紅蘭:なにをグズグズしてんねん。
    もう約束の時間なんやで。

たまき:紅蘭、歩くの速いよ〜。
 紅蘭:ウチが速いんやないがな。
    あんたがわざとノロノロ歩いてんねやないの。

たまき:・・・なんかこう、さぁ、
    目に見えない空気の壁がここにあって、
    わたしが前に進むのを邪魔してるみたいで・・・

 紅蘭:はあ?
たまき:進もうと思っても、足が前に出ないんだよ〜。
    はあ〜、やっぱり行きたくないなぁ。




 紅蘭:たまき・・・・・・
    宮古はんに会うのがそんなに嫌なんか。

たまき:・・・会いたくない。
    どうしても会わなきゃダメなの?

 紅蘭:うん。
    さ、行こう。
    (ぐいぐい)

たまき:ちょ、ちょっと待ってよう。
 紅蘭:あれから何度も宮古はんから
    誤解を招くようなことしたのを謝りたい、言うて電話があったんよ。
    あんたが出たがらないから取り次がんかったけどな。
    白石はんからも、二人の仲直りに協力してくれて言われてるし。

たまき:なかなおり・・・
    そんなこといわれてもなぁ。

 紅蘭:あんた、仲直りしたないの?
    もう宮古はんのこと嫌いになったん?

たまき:・・・嫌いじゃないよ。
 紅蘭:ほな、なんで?
たまき:よく・・・わかんないの。
    宮古さんがほかの子を好きなのかもしれないって思ったとき、
    急にわたしの中の宮古さんを好きな気持ちが、
    失敗したシュークリームのシューみたいに
    ぷふ〜〜〜ってしぼんでいくような感じがして・・・。
    なんだろうね。
    そうなる前は、いつまでも一緒にいたいなって思っていたのにさ。

 紅蘭:でも、あのときのことは基本的に誤解で、
    今でもたまきに対する宮古はんの気持ちは、
    変ってないそうやで。

たまき:そうなのかもしれないけど・・・
    あれ以来、なんかもう、前のようには
    宮古さんのことを思えないっていうか・・・

 紅蘭:・・・冷めてもうたんかいなぁ。
たまき:・・・嫌いになったわけじゃないの。
    今でも好きなんだよ。
    戻れるなら、二人でいたあのころに戻りたいって、
    すっごく思うし。
    でも今は・・・会いたくない。
    きっと、もう信じてあげる気になれないからかも・・・・
    だから、信じられていたあのころに戻りたい・・・のかな。

 紅蘭:なんやそれ。
    面倒なやっちゃなぁ。

たまき:・・・私もそう思う。
 紅蘭:しかし何でまた裁判所なんかで待ち合わせ?
たまき:水族園の前の園長の娘さんの裁判が今日あったんだって。
 紅蘭:ああ、高嶋女雛。
たまき:そう、その子。
    なんかさ、わたしは”ついで”って感じだよね。

 紅蘭:考えすぎやって。
    なぁ、そういうのあんたらしゅうないで?

たまき:ん〜〜〜〜〜〜、
    そうかなぁ。
    でもさぁ・・・・・・・

 紅蘭:ま、ええわ。
    ウチはここで帰るさかい、
    ここからはあんた一人で行くんやで。

たまき:えっ?
    ついてきてくれないの?
    わたし、宮古さんに会わずに帰っちゃうかもしれないよ?

 紅蘭:もう勝手にしたらええわ。
    でもなぁ、よう考えてみいな。
    あのころに戻るってのに一番近いのは、
    二人で会ってきちんと話して誤解を解いて、謝るところは謝って、
    謝らせるところは謝らせて、
    わだかまりのない状態に持っていくことやん。
    あのころに戻りたいっていうても、戻る方法なんかないんやで。
    あんたと宮古はんの間にあったことは、もう消せないんよ?
    せやろ?

たまき:・・・うん。
    でも・・・

 紅蘭:”でも”やない!
    ・・・ほなな。
    晩御飯はウチ作らないさかい、外で食べてきぃや。

たまき:あっ・・・
    こうらぁん・・・・・・。





たまき:・・・紅蘭の言うとおりなんだよね。
    わかってるんだけどさぁ。




    宮古さんの言ってた場所はあのへんかな。
    駐車場に車をとめておくから、中で待っててって言ってたらしいけど。
    ・・・あ、あった。

    宮古さん、まだ来てないみたい。
    もう約束の時間は過ぎてるっていうのにぃ。
    ・・・デートの時だっていつもそうだったよね、考えてみればさ。
    「仕事だからしょうがないよね」って言ってはいたけど、
    ホントはちゃんと時間通りに来てほしかったんだよなぁ。
    仕事とわたしとどっちが大事なんだろうって、
    馬鹿な考えだってわかってても、やっぱり思っちゃうもんね。

    (チャラ・・・ピー、ガショ)
    うわ、暑ぅ〜〜。
    車の中、サウナ状態だよ。
    いくらあたしが暑いの平気だからって、これはちょっとなぁ。
    まあ、エアコンつけるほどでもないから
    ちょっと窓あけてよっと。

    (ウィーーーーン)


   
 
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