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三津川:数年前から俺はあの一帯の山林を地元の地主から安く買い叩き、
    馬鹿な奴らを原野商法で引っ掛けようと準備していた。
    ところが、土地もそろってそろそろ売りに出そうかというときに
    TPCのほうから連絡が入ったんだ。

 ヒナ:TPC?
    (・・・っていうと、あの時あたしを助けてくれた人たち?)

三津川:TPCの本部が移転する計画を知っているか?
 ヒナ:そうなの?
    ・・・知らないけど。

三津川:TPCはあの山林の一帯をその本部基地移転の候補地のひとつに決めた。
    そして、正式に候補地として決定するために、地質調査させてくれ言ってきたんだ。
    地下にかなり広大な基地施設を建設するからなんだそうだ。
    最初はTPCに土地を高く売って儲けようと思ったが、
    買い取り額の上限はたいしたことないようだったし、
    調査結果次第では候補地にならないかもしれない。
    だから、俺は予定通りに客を集めて土地を売った。
    「TPCが基地を作る予定がある、数ヶ月で何倍にもなるはずだ」といって、
    かなりの金額を吹っかけることができたよ。
    もちろんその中にはお前の父親もいた。
    そこの鈴原さんもな。

 鈴原:ああ。
    いいように騙されたよ。




三津川:おかげで、TPCに売った場合の何倍もの金を稼ぐことができた。
    ・・・しかし、そうそう土地の値段は上がらない。
    TPCの調査はまだ途中だったんだから当然だ。
    その結果によっては。候補地にすらならんかもしれない。
    一部の客はだまされたといって俺と俺の会社を訴えたが、
    俺は売るときに嘘は言っていない。裁判にも勝つことができた。
    警察にも事情聴取されたが立件まではできなかったようだ。
    そしてTPCは、自分たちが不動産詐欺に利用されたと知った時点で
    候補地を変更して、山林は誰も買い取り手がいなくなった。

    まだ発表はされていないが、
    建設予定地は与田家がいくつかの交換条件のもとに、
    所有していた長野の山林を無償で提供して、そこに決まったらしい。
    去年の年末に与田家が催した船上パーティーに、
    建設大臣、長野県知事、TPC幹部連らを招待し、
    そこで極秘裏に会合を持って決めたそうだ。

    ・・・そして、しばらくたったある日、
    一人の女がうちに訪ねてきた。
    その女は千野井といって、TPCの準幹部で基地移転候補地の
    調査を担当していたとのことだった。
    新しい基地は広大な地下施設が計画されているので、
    候補地の地質も詳細に調査する必要があるんだそうだ。
    そして、その調査中にある場所の地中に面白いものを見つけたというんだな。

 ヒナ:・・・・面白いもの?

三津川:純金が固まって埋まっているらしい。
    その付近を調べてみると、いつの時代のものかはわからんが、
    かなり昔に横穴を埋め戻した跡が近くにある。
    おそらくだれかの埋蔵金が埋められているんだろう。
    金としての価値だけでも百数十億円は下らんと思われる。
    千野井は調査結果のこの部分を抹消して上層部に提出した。

 ヒナ:埋蔵金?
    悪いけど、そういうのって大概ウソくさい話なんじゃない?

三津川:なんでもTPCの装置を使えば、
    地面を掘らずに地中にあるものを正確に探知できるんだそうだ。
    位置も、なにがどれくらい埋まっているのかもな。
    伝説やら言い伝えやらをいいように解釈して
    ここに埋蔵金が埋まっていると舞い上がっているわけじゃない。


画像7

    だが埋められている場所はかなり深いところだ。
    掘り出すのには大型機械の助けも必要だ。
    ・・・実際、この間俺たちが人を雇って試験的に掘らせてみたが、
    大きな岩が邪魔をしていて、小型ショベルじゃ歯が立たなかった。
    まあ、そこで秘密裏に地価深くに眠る埋蔵金を掘り出すために、
    彼女は俺たちに協力を頼みにきたわけだ。

 ヒナ:あんたたちに?
    なぜ?
    だって、それってパパが山を買ったあとなんでしょ?

三津川:ああ、本来なら当時の山の持ち主である高嶋に話を持ち込むべきだ。
    しかし問題がある。
    地面に埋まっているものは、じつは落とし物と同じ扱いを受けるんだ。
    埋蔵金だって、掘り出したあとは落とし物として警察に届けないといけない。
    苦労して掘り出しても、もし持ち主の子孫なりが見つかれば、
    その持ち主から謝礼として埋蔵金の1〜2割がもらえるだけだ。
    届出から10ヵ月後まで持ち主があらわれない場合は
    埋蔵金は発見者のものになるが、これには所得税がかかり、
    埋蔵金の約4割は国のものになってしまう。
    国の文化財として認定されれば国が買い取ることになるが、
    この場合でもやはり同じように税金がかかる。
    なら警察に届けないで黙って自分のものにしてしまえよさそうなものだが、
    掘り出したものを黙って自分のものにするのは
    占有離脱物横領罪というりっぱな犯罪なんだ。
    届け出なかったことが発覚した場合は、
    全額没収されたうえに、罪を問われることになる。
    千野井はどちらの事態も避けたかったんだ。
    お前の父親はどうだ?
    埋蔵金を掘り出したら、警察に届けようと言い出すんじゃないか?
    千野井は高嶋氏を調査の上そういう人間だと判断して、
    この俺のところにきたわけだ。

 ヒナ:立派な人物だと見込まれたのね。
三津川:ふっ。
    まあそういうことだ。
    そしてお前の父親かた土地を取り返す工作を・・・・

   (キィ・・・バタン)

   :はぁ、
    ヤレヤレだわ。

三津川:・・・おや、千野井さん。
    もう散歩は終わりですか?


千野井:あら、その娘、
    まだ始末させてなかったの?

 ヒナ:あっ!
    ・・・う・・・うそ!?
    そんな・・・・・・

千野井:フフフ。
     なにを驚いているの?
     高嶋女雛。




 
     
 
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