11月4日(土)

今日は宮古さんからのおねがいで、
紅蘭と一緒に彼のつとめる水族園に向かっています。
途中でえりかちゃんとも合流する予定です。
なんでも、今月から水族園内を案内するツアーを始めるそうで、
宮古さんはその案内役なんです。
そのツアーをお客さんの立場から見てどこかおかしいところはないか、
宮古さんは私達を相手に予行演習したいとのこと。
でもね〜〜・・・。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

たまき:うぅぅ〜〜〜〜ん
 紅蘭:なあ、こんなとこで缶ジュース飲んでないで
    早よ行こ。
    約束の時間やし、
    えりかはもう来てるんとちゃうか?
たまき:ちょちょ、ちょっと待って。
 紅蘭:・・・なんやっちゅうねんな。
たまき:だってさぁ、カレシの職場に行くのって
    メッチャメチャ緊張するんだも〜ん。
    ちゃ〜んと女らしく振る舞えるかなぁとか、
    なんかバカなことしやしないかなぁとか〜・・・
 紅蘭:そんなん、普通にしたったらええやん。
    キャンプいったときも、そんなこと言ってたやろ?
    「自分のそういうところも知っててもらってもいいと思う」
    みたいなこと。
たまき:そりゃ宮古さんに、であって〜、
    職場の人達にはやっぱり、恥ずかしい彼女だと思われたくないでしょ。
    あ〜あ・・・。
    園内見学ツアーの予行演習につきあってほしいなんていわれて、
    面白そうだからついつい「いいよ」なんて言っちゃたけど、
    やっぱりやめておけばよかったかなぁ。
 紅蘭:なに言うてんの〜。
    ダイジョブダイジョブ。
    人間は、うまくやろう、いいとこ見せようなんて
    思えば思うほどポカするもんやで。
    普通にやればそれでええんやから。
たまき:・・・・・・ううぅぅ〜〜〜〜ん
    なるほど。

えりか:ああ〜〜っ!!
    こんなところにいた〜!!
    二人してなにやってるんですかー!
    待ち合わせ場所はここじゃないでしょ〜。

久々えりかちゃん

たまき:えりかちゃん!
    待たせてごめ〜ん。
    私がモタモタしてたんだよ。
えりか:モタモタっていったい・・・・・・
 紅蘭:ほら、えりかもたまきも、
    さっさと水族館に行こ。
えりか:うっしゃー!
たまき:え?あ?
    行くの?
えりか:えりかを誘ったのは先輩でしょ?
    早く行きましょうよぅ。
たまき:まっ、まだ心の準備が・・・・・・
 紅蘭:せやから〜、
    そんなんいらんちゅうに。

 紅蘭:ウチら、チケット買わんとイカンのかな?
たまき:「水族園についたら俺を呼び出してくれ」って、
    宮古さんは言ってたけど。
 紅蘭:ほな呼んでもらおうか。
    ・・・あのモギリの女の人でええかな。
    あの〜、すいません。
    こちらで働いている宮古はんて人、ちょっと呼んでらいたんやけど。
    ウチら今日呼ばれてきたんです。
受付嬢:宮古ですか?
    ああ、はい。
    今お呼びしますから、少々お待ちください。
 紅蘭:は〜い。
    みんな、そのへんに座って待ってよか。
たまき:うん。

えりか:それにしても、いまだに信じられないなぁ。
    あのオジ・・・男の人が先輩のカレシになってるなんて〜。
たまき:なってるんだよ。
 紅蘭:信じられないって・・・、そうか。
    えりかはふたり一緒にいるとこ見た事ないんか。
えりか:ないの。
    な〜んか、実感わかんないんですよねぇ〜。
 紅蘭:「実感わかない」やろ。
えりか:そー、それそれ。
たまき:じゃあ今日はちょうどいい機会だし、その実感とやらを・・・
    あ、宮古さんだ。
 紅蘭:やっほ〜。
えりか:どうも。
たまき:ご、ごきげんよう!
 紅蘭:・・・・・・はぁ?
えりか:せんぱい・・・・・?
 宮古:・・・・・・なに?
    たまちゃん、どうしたん?

血迷ってます?

たまき:今日は、とっても良いお天気ね。
 紅蘭:アホ、やめんか!
    怖いっちゅーねん。
たまき:だぁって〜・・・・・・。
えりか:なんかムリクリって感じ。
 紅蘭:ひとこと言っとくけどな。
    自分に無い引き出しを開けようったって、無駄やで。
たまき:ど、・・・どういう意味よう。
 宮古:紅蘭、これってなんかのネタ?
 紅蘭:ああ〜、気にせんといて。
    ちょっと血迷ってるだけやから。
    それよりこれからどうするん?
 宮古:じゃあさっそくだけど、こっちの部屋に来てくれないかな。
    渡す機材があるんだ。

 宮古:ここは、園内見学ツアーに参加するお客さんの待機室になる部屋なんだ。
    お客さんはここで係員から説明を受けて、機材を受け取り、
    そのあとツアーに出発することになる。
    でも、ほんとにすまないね、付き合わせちゃって。
    一般のお客さんを案内する前に、いっぺん予行演習したくてさ。
 紅蘭:それって、職員の人が相手やったらアカンの?
 宮古:あいつらにとってここは職場だから、どこも見なれてて、
    一般のお客さんを案内するときの参考にはならないんだよね。
    案内しても、一般のお客さんがなにに興味を示すか、
    どんなところで驚くか、そういう大事なことがわからないんだよ。
たまき:それで私達を呼んだのね。
 宮古:ああ。
    だから案内中に意見があったり、わかりにくいことがあったら、
    どんどん言って欲しいんだんだよね。
 紅蘭:よし、じゃあ今からウチらはそのお客さんや。
    宮古はんもそのつもりでウチらに説明してな。
    練習になるし、問題点もみつけやすいやろ。
 宮古:・・・そうだね。
    その方が実践的だな。
たまき:宮古さんがんばって!
 宮古:ん。
    じゃあ始めるよ。
    ・・・え〜、今日はようこそ当水族園の園内見学ツアーに参加いただきました。
 紅蘭:「本日は」のほうがええんちゃうかな。
 宮古:本日は、ようこそ当水族園の園内見学ツアーに参加いただきました。
 紅蘭:もっとにこやかに。
 宮古:ほ、本日はようこそ当水族園の園内けんがつつあー・・・
 紅蘭:なんや「けんがつ」って。
たまき:紅蘭、キビシー。
えりか:なんだか、欽ちゃんのコントみたいですね。
たまき:え?
 宮古:・・・・・・こ、紅蘭、頼む。
    ちょっと一通りやらせてくれ。
    アドバイスはあとでまとめて聞くから。
 紅蘭:わかった。
    ほなそうするわ。

 宮古:ゴホン。
    本日は、ようこそ当市営水族園の園内見学ツアーに参加いただきました。
    この水族園は大小あわせて32の水槽に、
    260種4000点の生物を飼育しています。
    このツアーでは、水族園を、
    みなさんが普段見ることのない裏側から見ていただき、
    生き物達がどのように飼育されているかを紹介します。
    ではまずこの機械をお貸しします。
    ハイ、どうぞ。
たまき:なにこれ。
    ウォークマンみたいな・・・・・・。
 紅蘭:イヤホンついてるしなぁ。
 宮古:え〜、これは無線機です。
    案内する場所によっては周りの機械の音が大きくて、
    私の説明が聞き取りにくいことがあると思います。
    だからといって、大声で説明するのは他のお客さんの迷惑になりますので、
    この無線機を使用します。
    私がこの口元のマイクで話すと、

    そのイヤホンから声が聞こえるようになっています。
    音声は一方通行ですから、

    周囲の音が大きいところでみなさんが私に質問がある時は、
    手を挙げて、大きな声で質問してくださるようお願いします。
    ではまず、その角にあるダイヤルを回して下さい。
    少し回すと「ポツッ」と音がして電源が入るはずです。
    そのまま回していくと、イヤホンから聞こえる私の声が

    段々大きくなっていくはずです。
    ・・・・・・なりましたか?
たまき:なりました。
 紅蘭:・・・ふーん、なるほどな。
えりか:いいな〜、これほしいなぁ〜。
    これが2セットあれば、授業中でもお友達とこっそり話ができるよ。
たまき:こらこら。
 紅蘭:飲み屋で話するときなんか、周りがやかましいからこっちも大声になるけど、
    これがあったら普通に話して聞こえそうやな。
えりか:クラブなんかでも音楽の音が大きいから、
    おはなしするときこれがあると超便利〜。
    おっきい声で世間話するのって疲れるんだもん。
    ね〜、おにいさ〜ん。
 宮古:あげないよ。
    それ高いんだから。
    うち予算ないんだからね。
えりか:あうち!
 宮古:ではこれから出発です。
    まずは濾過機械室に行きますので、私の後についてきてください。

    ・・・・・・と、まあこんな感じですが、
    皆さんいかがだったでしょう。
たまき:お仕事してる〜って感じで、宮古さんカッコよかった〜♪
えりか:教生の先生みたい。
    わかりやすかったですよ。
 宮古:ありがとう。そりゃ良かった。
    で、紅蘭は?
 紅蘭:全体的にギクシャクしてはいたけど、まあまあやったな。
    言葉も平易でわかりやすかったし。
    機械の使い方の説明はウチにはクドかったけど、   
    普通の女の子にはあれくらい詳しいほうがええやろ。
    電源を入れた後でお客さんに装着させて、
    宮古はんの声が聞こえるか一応チェックさせるべきやな。
    あと、この機械が高価やっちゅうのは、
    機械を渡すときに冗談交じりで説明してもいいかもしれんな。
    後でいうよりその方が心象ええからね。
    ま、そんなとこや。
 宮古:・・・・・・はい。
    参考にします。
 紅蘭:うむ。
    これからも精進せいよ。
えりか:先輩。
    えりかがしばらく会わないうちに、紅蘭のキャラが変ってますね。
たまき:・・・すぐ元に戻ると思うよ。

機械音:(ごおおおおおおおおおおおおおおおおお

濾過機械室

えりか:なんかの工場みたい。
たまき:え?
えりか:なんかの〜、こうじょうみたい〜〜!
たまき:そうだね。
えりか:え?
たまき:そ〜う〜だ〜ね〜〜っ!
えりか:ああ、はい。
たまき:え?
えりか:ああ〜、は〜い〜っ!
 紅蘭:いつまでやってんねん!
    そこまで煩うないやん。
たまき:え?
 紅蘭:あんた、ホンマは聞こえてんのにわざとやってるやろ。
たまき:うん。
 紅蘭:・・・・・・・・・・・・。
 宮古:俺の声聞こえる?
    聞こえたら手をあげて。
たまき:あっ、良く聞こえるよ。は〜い。
    このイヤホンがないとあんまり聞こえないけど。
えりか:きこえまーす。
 紅蘭:ウチはもうちょっとボリューム上げとこ。
 宮古:じゃ始めようか・・・・・・。
    え〜、ここは濾過機械室です。
    生き物を飼っている水槽は、そのままほうっておくとどんどん水が濁ってきて、
    しまいには中にいる生き物はみな死んでしまいます。
    これは、生物が水に溶け込んでいる酸素を使いきってしまうからと、
    生物の老廃物から出るアンモニアが水を汚してしまうからです。
    そこで、ほとんどの水族園ではこういう機械を使って水を濾過して、
    綺麗にしてまた水槽に戻すということをしています。
    これを閉鎖式といいます。
 紅蘭:ちょっとええ?
    海の水なんかすぐそこの海から汲みあげて、
    汚れた水は捨てたらええやん。
    その方が簡単やろ?
 宮古:いい質問だね。
たまき:海水を捨てると環境に悪いから?
 宮古:海に住んでる生き物が生きていく上で汚した水なら
    環境に影響あるはずないよ。
    実はそうやって海水をくみ上げている水族館もある。
    さっき、”ほとんどの水族館では”といったのはそういうことなんだ。
    そういう方式を開放型というんだけど、それができる条件は、
    まずきれいな海に近いことと、その水域の漁協の協力を得られることなんだ。
    んでまあ、このへんの漁協は海の中に取水口を設置するのを嫌がるんだな。
    ここは港も近いからしょうがないんだけどね。
    そういう事情なんで、わざと説明に入れなかったんだけど・・・・・・
 紅蘭:まー、たしかに、その方が無難やろね。

 宮古:さて、水の中に溶け込んだアンモニアを取り除く方法ですが、
    これには微生物の力を借りています。
    濾過槽の中の一番下にはこういう小石が入っているのですが、
    この小石にくっついている微生物は、水中のアンモニアを分解して
    無害な物質に変えてくれるのです。
    この大きなタンクが今いった濾過槽です。
    こうして綺麗になった水はこの熱交換器を通って温度調節されて、
    このパイプから出てきます。そしてここから各水槽に配られるのです。
    ・・・・・・わかりましたでしょうか。
 紅蘭:ナルホドなぁ。
    きれいな水槽の裏にはこういう仕組みがあったんやね。
たまき:ごめん。私、なんかイメージ湧かなくてよくわかんなかった。
 宮古:わかんなかった?
    どこが?
たまき:ここを通ると水がキレイになるのはわかったけど、
    でも・・・分解とかしても汚いのは・・・細かくなって残るんでしょ?
 紅蘭:だからー!分解したら別のもんになるんやって。
    残らへんのっ!
たまき:えぇー、なんでよ〜?
    ・・・あ、やっぱ説明しなくてもいい。
    わたし昔から化学とか苦手で・・・・・。
 紅蘭:「アンモニア」は「アン」と「モニアン」に分解されて、
    分解されたアンにもモニアンにも毒はないねんよ。
 宮古:嘘教えるなよ〜。
 紅蘭:例えれば、って事やん。
たまき:えりかちゃんはわかった?
えりか:ぐーーーーーー・・・・・・・
 宮古:あっ、寝てる!
 紅蘭:こないなとこで寝るなっちゅうの。
    (ゆさゆさ)
えりか:・・・んん〜、わかりません。
 紅蘭:こういう中の見えん機械もんは、軽く流したほうがええかもしれんな。
    お客は工場見学しにきたわけとちゃうからなぁ。
 宮古:そうか〜。
    ここは水族館では一番大事な所なんだけどなぁ。
 紅蘭:それはわかるけど、お客の興味の方向も考慮せんと。
 宮古:でも、ここを外すわけには行かないから・・・
    パネルでも用意してわかりやすく説明できるように工夫するかな。
    ・・・・・・じゃあ次行こうか。

たまき:へぇ、あの熱帯魚の水槽のそばのドアの向こうって、
    この淡水魚の水槽の所なんだ〜。
    ずっと離れていると思ってたのに。
 紅蘭:狭い所でも広く感じるように、
    うまいこと順路を設定してあるんやな。
えりか:こうやってどんどん「関係者以外立ち入り禁止」のドアを抜けてくのって、
    なんか気持ちいいですね。
たまき:特別扱いされている感じだよね。
 宮古:この奥がバックヤードで、俺達職員が仕事をする所だよ。
    廊下に荷物が置いてあったりするから、足元に気を付けて。

 宮古:あの部屋が給餌室といって、魚などに与える餌を加工する場所。
    ・・・・・・ちょっと待ってて。
    おい、おまえら。
    今からここ、お客さん案内するけどいいか?
職員A:ああ、主任。
    どうぞ。
職員B:例の見学ツアーですか。
    おつかれ様です。
    ボクらは事務所にいますから、なんかあったら呼んでください。
 宮古:わかった。
    あ、みんな入って。
 紅蘭:(くんくん)
    なんや、サカナ臭い所やね。
たまき:みためは厨房みたいだね。

給餌室

えりか:ちっちゃい水槽にカメがいますよ。
    あれもなにかの餌になるのかな〜。
 宮古:それは餌じゃなくて、怪我をしたカメなんだよ。
    給餌室は大抵誰かいるから、様子を見るのに最適なんだ。
    ・・・ん〜、だいぶ良くなったみたいだな。
たまき:どうしたの?
 宮古:こいつ、飼い主に捨てられたペットみたいなんだ。
    怪我をして、そこの水族園の池で見つかったんだ。
 紅蘭:なんでペットってわかるん。
    あの池にはカメは住んでへんの?
 宮古:あの池は淡水じゃなくて海水だから、
    こういうカメは住めないんだよ。
    誰かが捨てたんでなければ、あそこで見つかるはずないんだ。
 紅蘭:そうなんか〜。
    無責任な奴がいるもんやな。
 宮古:ほんとにな。
    まあコイツのことはいいとして、
    本題に入ろうか。
    え〜、
    ここはこの水族園で飼育している生き物の餌を作る場所です。
    生き物にはいろんな種類がいるので、餌の種類もこのとおり、
    貝や海草や何種類かの魚。
    変ったところでは豚のレバー。
    これはアマゾン水槽のピラルクやガーフィッシュに与えます。
    それから30代の人には懐かしいらしいこのシーモンキーも、
    動物プランクトンを食べるイソギンチャクなどに与える為に用意されています。
    シーモンキーは乾燥した卵の状態で常温保存でき、
    孵化させるのも水に入れるだけと非常に簡単なのでとても便利です。
 紅蘭:餌にする魚って、ここで飼ってたやつなん?
 宮古:これら餌にする海草も貝も魚も、全部魚市場で仕入れてきたものです。
    養殖するよりもその方が安いんです。
    また、そういう安い魚を選んで買いつけています。
    ・・・予算ないから。
    魚市場で買ってくるので、みなさんの食卓に並ぶおなじみの種類の魚が、
    水族園では餌に使われることになります。
えりか:ハイ質問。
    これ、ちっちゃいエビみたいなのに、
    なんでシーモンキーなんて名前なんですか?
 宮古:皆目わかりません。
    さて、ここでちょっと学術的なクイズです。
    餌にする魚はこのとおりイロイロあるんですが、
    これらの名前はわかりますか?
    まずこの魚。

鯵

 紅蘭:アカン、うち苦手。
    こういう青い魚ってみんな同じに見えるわ。
    ・・・パターン認識が甘いんやろか。
えりか:えりかも名前はわかんない。
    見た事ある魚なんだけど〜。
 宮古:たまちゃんはわかるでしょ?
たまき:もちろんわかるよ。
    これは、アジ。
    基本でしょ?
 宮古:ふ〜ん。
    じゃあこれは?
たまき:これはイワシ。
    簡単すぎるよ〜。
    二人ともなんでわかんないかなぁ。
 宮古:両方とも、は〜ずれ〜〜!
たまき:えっ、うそ。
    この側面のギザギザ、この形、
    絶対アジだって。
    それにこれだって、間違いなくイワシ・・・。
 宮古:この魚は”マアジ”。
    こっちは”マイワシ”
    ここは博物館法の下で運営されている施設なんだから、
    きちんと標準和名で答えて欲しいですな。
たまき:それずるい〜!
 宮古:これが正しい名前だもん、
    ずるくないよ。
    図鑑を見てごらん。ちゃんとマアジ・マイワシって書いてあるから。
たまき:ううう〜〜っ!
 紅蘭:う〜ん、
    これはいつぞやのクイズ合戦のリベンジなん?
 宮古:そういうつもりじゃないけど・・・。
    じゃあこの魚はわかるでしょ。
たまき:これはサンマだから〜、
    マ・・・マサンマ?
 宮古:はずれ!
えりか:・・・サマンサ?
 紅蘭:なんでやねん。(笑)
 宮古:サンマはサンマだよ。
    じゃあこれは?
たまき:これは、シ、シシャモ・・・、でしょ?
    マシシャモなんてないし・・・・・・
    
あっ、ホンシシャモだ!
    そう何度も引っ掛からないよ。
    ホンシシャモでしょ。
 宮古:一般に売っているシシャモは、
    実はシシャモとはまったく違う種類の魚なんだよね。
    というわけで、これはキャベリンっていう魚でした。
たまき:うう〜〜〜〜っ!
    
イジワルーーー!
 宮古:いててててて!
    つねるなよ〜!
    暴力反対〜!
たまき:くやしい〜。
 宮古:魚屋さんでカラフトシシャモって書いてあるのがこれだよ。
    本当のホンシシャモは鮭みたいに川を上ってくる魚で、
    とれる期間も一ヶ月だけでしかも傷みやすいっていうレアな魚なんだ。
    ウチではとても大量に仕入れることはできません。
    なんせ予算ないですから。
 紅蘭:3回も言われるとシャレに聞こえんようになってきたな・・・。
 宮古:ないんだよほんとに。
    この見学ツアーも、集客力アップを狙って新園長が企画したものなんだ。
    水族園は維持費がかかるから、お客さんにはたくさん来てもらわないとね。
    ・・・とはいえ、紅蘭の言う通り、
    冗談でも予算ナイナイいうのは確かによくないかもな。

    ツアーでは、ここでお客さんに、今みたいな身近な魚の名前当てクイズや、
    サカナにビタミン剤を詰めるところの実演をやろうと思ってる。
たまき:わたし、そのクスリ詰めるの見た事ないんだよ。
    一度見てみたいな。
 宮古:・・・そうだっけ?
    そうか。ニコさんとこで説明しただけで、
    実際には見てないんだったね。
えりか:ね〜、なんでビタミン剤なんか詰めるの?
    栄養が足りないの?
たまき:わからないかたは6月29日の日記を読んでくださいね♪
えりか:そんなのめんどいです〜。
    今説明してくださいよぅ!(笑)
たまき:・・・・・・だってさ。
 宮古:水族館で使われる餌の魚は、寄生虫を殺すために
    必ずいったん冷凍にするんだよ。
    生きている魚を餌として与えることは、原則としてないんだ。
    だが鮮度の落ちた魚は栄養に欠けるし、
    それに養殖魚と天然物の違いもあるから、
    栄養剤やカルシウム剤なんかのクスリを餌に仕込んで、
    必要な栄養を補っているんだよ。
    わかった?
えりか:どうもご親切に。
 宮古:じゃあさっそくやってみようか。
    このマイワシがいいかな。
    この錠剤をエラから入れて、そのままハラのほうに押し込むんだよ。
    なんで口から薬を入れないかというと、
    それだと水に入れただけで簡単に出てきちゃうからなんだ。
    この方法はもとはといえばアメリカのモントレー水族館に、
    ペンギンの飼育方法の研修に行った日本人が覚えてきたことなんだよ。
    動物にビタミン剤を与えるなんて、確かにアメリカ西海岸的な発想だよね。
    面白いのが、もう何年もこの作業をやっているアメリカ人よりも、
    始めて間もない日本人研修生のほうがクスリ詰めが上手だったことだね。
    あっという間に作業を済ませていく日本人の器用さに、
    向こうの人は驚いたらしいよ。
たまき:ふう〜〜ん。
    そういうもんかなぁ。
 紅蘭:って、そのモントレー水族館ってどこにあんねん。
 宮古:あ、そうか。
    普通の人は知らないよな。
たまき:アメリカのカリフォルニアだよ。
    ラッコやアシカの飼育で世界でも有名な水族館なんだって。
    ね、宮古さん。
 宮古:そうそう。
    ・・・俺が言ってたの覚えてたんだ。
たまき:アメリカの話が出れば、いつも必ずモントレーの話するじゃん。
    行ってみたい〜って。
 宮古:・・・そう?
    あんまり自覚ないなぁ。

 宮古:それではさっそく、ペンギンに餌を与えに行きましょう。
    このゴム手袋を付けて、私についてきてください。
えりか:わ〜い、餌やり〜!
 紅蘭:あの、そういえば、
    うちに迷い込んできたイリスって、まだ元気なん?
 宮古:ああ。
    どれがあのときのペンギンか、餌をあげるときに教えてあげるよ。
 紅蘭:おおきになぁ。
    いやぁ〜、ひさしぶりやな。

 森田:あの、こちらの職員の方でしょうか。
 宮古:・・・はい、そうですが。
 森田:すみませんが、園長室がどちらか教えて欲しいんですが。
たまき:森田さん?
    森田捜査官じゃないですか。
 紅蘭:こんにちわぁ。

久々の森田捜査官

 森田:・・・ああ、たしか怪盗X事件のときの〜、
    寺月さんに李紅蘭さん。
たまき:どうしたんですか?
    刑事さんが水族館なんかで。
 宮古:刑事さん?
    ・・・警察のかた、ですか?
 森田:そうです。
    特別捜査官の森田といいます。
    こちらの園長にお話がありまして。
 宮古:・・・わかりました。
    みんな、ちょっとここで待っててくれるかな。
    すぐに戻ってくるから。
たまき:・・・うん。
 宮古:こちらです。
 森田:ハイ。

 紅蘭:なんやろなぁ。
    森田はん。
たまき:またなんか事件なのかな。
えりか:二人とも、静かに。
たまき:どうしたの?
えりか:イヤホンから声が聞こえます。
 紅蘭:そうか。
    宮古はん、マイクのスイッチ入れっぱなしなんや。
    これで森田はんの用件がわかるで。
たまき:だめだよ、こんな立ち聞きみたいなこと〜。
 紅蘭:ほな座ろか。
たまき:うん。
    ・・・って、そうじゃなくて〜!
えりか:し〜〜っ・・・・・・

 宮古:こちらが園長室です。
    (コンコン)
 園長:どうぞ。
 宮古:失礼します。
    園長、お客様をお連れしました。
 森田:はじめまして。
    お電話いただきました、県警特別捜査官の森田です。
 園長:お待ちしていました。
副園長:わざわざどうも、ごくろうさまです。
 宮古:・・・副園長もいらっしゃったんですか。
    これはいったい・・・・・・。
副園長:ああ、宮古君。
    ちょうどいいから君もここで話を聞きなさい。
 宮古:・・・はい。
 園長:私がこの水族園に来てもう半年ほどになります。
    以前は市の経理関係の仕事をしていたので、
    この水族園の赤字経営を経理面からどうにかできないか、
    書類をいろいろ調べていたんですが、その過程でわかったことは、
    どうも、3年間に渡って4千万円ほどの横領が行われていたということです。
    ・・・恐らく、これは前園長の高嶋氏によってです。
    彼の机から出てきたメモはそちらに先週届けましたが、
    もうご覧になりましたか。
 宮古:・・・・・・・・・・・・・。
 森田:拝見しました。
    鑑定した結果、高嶋氏の筆跡と一致しています。
    高嶋氏は、5月に水難事故で他界されていますね。
副園長:そのとおりです。
 園長:帳簿でわかる範囲のことは調べてみたのですが、
    私どもではそれ以上は・・・。
    こちらにある資料はお渡ししますので、
    警察のほうで調べていただきたいのですが。
 森田:わかりました。
    さっそく専門家チームを派遣させます。
    こちらの営業時間は?
 園長:5時までです。
 森田:ではそれ以降に到着するよう手配しましょう。
    その方が無用の混乱を避けられるでしょうから。
 園長:お気遣いありがとうございます。
    ここにいる宮古主任と副園長の鈴原さんは、
    高島前園長とは付き合いが長いそうです。
    そうだな、宮古君。
 宮古:・・・はい。
 園長:高嶋前園長については、この二人に聞いていただければ、
    大抵のことはわかると思います。
 森田:わかりました。
    お二人には後でいろいろお伺いします。
副園長:このことは、やはり世間に発表されるんでしょうな。
 森田:そうですね。
    今日の夕方くらいにはニュースになるでしょう。
    市のほうと相談して、記者会見をするとか、
    マスコミにたいする対応策を立てておいたほうがいいでしょうね。
    公営施設の横領事件は大きなニュースになりますから。
 園長:わかりました。
    宮古君は今のうちに仕事に引継ぎをして、
    午後からは予定を開けておきなさい。
    手伝ってもらうことがあるから。
 宮古:ハイ。
    ・・・・・・では失礼します。

たまき:横領?
 紅蘭:なんとまぁ。
    身近にもおこることなんやねぇ。
たまき:この水族園、大丈夫なのかなぁ。
    潰されちゃったりしない?
 紅蘭:そら大丈夫やろ。
    もっとも、前園長は横領した分を返還しないとアカンやろうけど。
えりか:でも、前の園長は他界したって。
 紅蘭:ほなその遺族が、やな。
たまき:確か、お嬢さんが一人いるだけだって、
    宮古さんが言っていたけど・・・。
    宮古さんは前の園長さんのこととっても尊敬してたんだよ。
 紅蘭:そうなんか・・・。


 宮古:みんな・・・・・・
たまき:宮古さん・・・。
 宮古:あの、悪いんだけど、ツアーの予行演習はここで中止にさせてくれないかな。
    今ちょっと立て込んできちゃって。
たまき:うん。
    あの・・・・・・
 宮古:すまないけど、それじゃあ。
 紅蘭:宮古はん、無線のマイクのスイッチはいってんで。
 宮古:・・・・・・あっ、
    しまった。
    じゃあ、さっきの話し聞こえてた?
 紅蘭:まぁ、聞くとは無しにな。
えりか:え〜!?
    どちらかっていうと積極的に・・・(ムガムガ)
 紅蘭:たまき、この子おさえとって。
たまき:うん。
 紅蘭:まだ前の園長がやったって決まったわけやないんやから、
    気を落とさんで、な。
たまき:そうだよ。
    元気出してね。
    今晩、電話するし。
 宮古:ありがと。
えりか:(モガモガ〜)

ひとりで抱え込み禁止

えりか:なんか、先輩まで元気ないですね。
 紅蘭:宮古はんのことが心配なんか?
たまき:それもあるけど、
    宮古さん、理由を説明しないで私達を帰そうとしたじゃない。
    せめてわたしには、教えて欲しかったな。
    自分ばっかり辛い思いしてないでさ。
 紅蘭:ああ〜〜・・・・・・、
    それはきっと、ウチらが一緒にいたからやで。
    あんただけやったら、ちゃんと説明してくれたんやないかな。
たまき:そうかなぁ。
 紅蘭:そうやって!
    で、これからどうする?
たまき:もう帰ろうか。
えりか:ええ〜〜、
    せっかく水族館にきたんだから、
    水槽のお魚見て行きましょうしょう。
    今日って、まだ死んだ魚しか見てないですよう。
たまき:そういえばそうだね。
    よし、見に行こうか!
えりか:そうこなっくちゃあ!
    先輩いきましょー!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

というわけで、えりかちゃんにつられて水族館を見てはいったんですが、
キレイな魚を見ても何も感じなくて・・・・・・
宮古さんのことが気がかりです。
尊敬していた人が悪いことをしていたかもしれないなんて、
ショックだろうね。
夕方のニュースでは、前の園長さんが書いた横領に関する詳しいメモが、
動かぬ証拠として紹介されてました。
容疑者って言葉は使っているけど、ほとんど犯人って感じの扱いでしたし。
ニュースのあと宮古さんに電話したら、しばらく話し中でした。

   
 



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