2月28日(水)


ヒナ:電話で言われた通り、
   「黒のタイトミニ。黒のストッキング。上も黒で、セーターか何か」にしたよ。
   これでいいの?

宮古:ああ、
   まあいいんじゃないかな。

ヒナ:へへへ〜。でも意外だな〜。
   モト君、こういうのが好みなんだ。
   早く言ってくれればよかったのに。
   どう、かっこいい?


のっけ

宮古:テーブルの上に足乗っけるなよ。
   行儀悪いぞ。

ヒナ:ふっふっふ〜、なに照れてるの〜?
   よいではないか、よいではないか。
   ほれ、遠慮せずにもっと近う♪

宮古:おい、よせって。
   なに浮かれてんだよ。

ヒナ:・・・な、なんだよぉ〜〜。
   モト君が「今日はこういう格好で」ってわざわざ言うから
   喜んでもらおうと思って、せっかく用意したのにさぁ。
   なんか冷たいんだ。
   あたしには似合ってない・・・?

宮古:違うんだよ。
   それは俺の好みじゃなくて、
   今日来る弁護士の先生のリクエストなんだよ。
   俺はただ、電話でそれを伝えただけ。

ヒナ:これ、
   ・・・・・・弁護士さんの指示なの?

宮古:うん。
   よくわかんないけど、
   そういう格好の依頼人だとヤル気になるんだって。

ヒナ:・・・モト君。
宮古:なんだ?
ヒナ:その先生、大丈夫なんでしょうね・・・。
   なんなのその、ヤルキだのなんだのって。
   その人、普通じゃないんじゃないの?

宮古:大丈夫だよ。
   ちょっと変わり者なだけだから。
   じゃあ俺、先生呼んでくる。

ヒナ:ちょっと〜〜〜〜!?

白石弁護士

白石:やあ、こんにちは。
ヒナ:(アヤシーーーー!!!(笑))
白石:ご依頼いただきました弁護士の白石です。
   あなたが依頼人の高嶋女雛さんですね。

ヒナ:は、ハイぃぃ。
   よろしくお願いします。

白石:う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん
ヒナ:??
白石:・・・・・・いい。
ヒナ:????????
白石:宮古。
   この依頼人は素晴らしい!
   僕、すっごくヤル気が出てきたよ!
宮古:そうか、
   よかったなヒナ。

ヒナ:(とほほ・・・)
   あの、どうぞおかけください。

白石:どうも。
   ではさっそくですが、訴状を見せていただけますか。
   添付されていた書類も一緒に。
ヒナ:はい。
   ・・・コレです。

白石:なになに、
   1.被告は原告に対して、業務上横領した金四千二百万円を返還するものとする。
   2.被告は原告に対して、支払われた退職金二千二十八万七千円を返還するものとする。
   3.訴訟費用は被告が負担するものとする。
   との判決ならびに仮執行の宣言を求める。
   ・・・ふ〜〜ん。
   これは豪勢な訴訟ですね。
宮古:これ、なんか一方的な文章だなあ。
白石:訴状というのは一方的に書かれるものだよ。
   こんなものがいきなり裁判所から届いたら、誰だってびっくりする。
   夜も眠れず、ごはんも喉を通らなくなるものさ。
   高嶋さんは大丈夫でしたか?
ヒナ:・・・ええ。まあ。
白石:それはそれは。
   気丈な方なんですね。
ヒナ:知り合いの人が、電話でいろいろ教えてくれたんです。
   訴状についても、先生と同じようなことを言っていました。
   訴状の内容を認める気がないなら、答弁書でそう書けばいいから、
   今の時点で気に病むことはないって元気づけてくれて。

白石:その通りですよ。
   双方の意見を聞いてどちらが正しいか決めるために、
   これから裁判をするんです。
宮古:そういえば、今日来るんじゃなかったのか、
   その、電話でアドバイスしてくれた人。

ヒナ:うるる・・・、漆木さんは都合が合わなかったんだよ。
   先生にもモト君にも会ってもらいたかったのに。

宮古:そうなのか。

白石:なあ宮古、お前モト君とか呼ばれてるの?
   もとくん?
宮古:・・・そうだよ。
   い、いいだろ、別に。

白石:ああ、もちろんかまわないよ。
   いい呼びかたじゃないか。
   へぇ〜、モト君ねぇ。
   ほお〜〜〜。
   ・・・弟にも教えとこ。
宮古:ほら、仕事仕事。
白石:してるって。
   話しながらでも訴状くらい読めるよ。
宮古:なあ、その、
   訴状とか答弁書って、
   どういうものなんだ?

白石:うん。
   まず、訴えたほうを原告、原告に訴えられたほうを被告と呼ぶんだけど、
   訴状というのは、原告が裁判所に提出するものだ。
   つまり「出るとこ出ようやないけ」といった人が最初にする手続きだね。
   そこにはこのように、
   自分は裁判所にどういう判決を出して欲しいか、つまり請求の趣旨と、
   またそう要求する理由は何か、つまり請求の原因が書かれている。
   そしてそのあと、その要求が正当なものであるという証拠がリストアップされている。
   これだと、甲第1号証のメモのコピーと、
   甲第2号証のメモの筆跡鑑定書、
   甲第3号証から6号証の、水族園の予算に関する書類群、
   甲第7号証の高嶋園長が詐欺にあって買ったといわれる山の登記簿だね。
   この「甲」というのは原告の提出する証拠につけるもので、
   被告が提出する証拠は「乙」をつけるんだ。乙第何号証という。
   ちなみに基本的な証拠は訴状に提示しないといけないけれど、
   全てを書く必要はないんだ。
   場合にも寄るが、裁判中にいきなり提出したほうが効果的な場合は、
   そうしてもかまわない。
   だから向こうには隠し玉があるかもしれない。

   ともかく、訴状というのはこういう内容だ。
   聞いてるか、宮古。
宮古:えっ?
   ああ、うん。


レクチャー

ヒナ:なんか聞き流してなかった?
宮古:そんなことないって。
白石:・・・・・・これに対し答弁書というのは、
   この訴状に対して被告が書くものだ。
   「原告の言い分は認められないので、こちらとしては
   裁判所にこういう判決を出して欲しい」ということをまず書く。
   この場合、請求の趣旨に対する答弁としては、
   まあ、あいてに一銭も払うつもりがないときは
   1.原告の請求を棄却する
   2.訴訟費用は原告の負担とする
   との判決を求める
   ・・・などと書けばいいんだ。
   今日は訴状を見て、どういう答弁書が高嶋さんの考えに則するか、
   いろいろ話しを聞きながら考えようというのが目的だ。
   高嶋さん、よろしいですね。

ヒナ:はい。
白石:では率直にお聞きしますが、
   実際のところ、お父さんは公金を横領したんでしょうか。

宮古:してないに決まってるだろ!?
白石:宮古は黙ってて。
   弁護士には全てを正直に話してもらいたいんですよ。
   もちろんここで聞いたことの秘密は守りますし、
   高嶋さんのお父さんが横領をしていても、していなくても、
   高嶋さんの弁護はきちんとやります。
   なぜこういうことを聞くかというとですね、
   まず、答弁書に書くことが変わってきます。
   横領を認めないので何も返さないのか、
   横領したかどうか自分は知らないから、返す気はないのか、
   横領を認めてそのお金は返すとしたうえで、
   でも懲戒免職は不服なので退職金だけ返さないのか。
   最初と2番目の場合は、横領したかどうかが裁判の争点になりますし、
   3番目の場合は、横領した職員を懲戒免職にするのが適当かどうか
   というのが争点になります。
   そして、もっと大事な理由ですが、
   それは、法律と裁判の専門家である僕に、全てを任せて欲しいからなんです。
   何が重要な証拠になり、何を言ったら相手に足元をすくわれるか、
   どこで引き、どこでどう押すか、どう有利に事を運ぶか、
   専門家の経験と知識をもってして初めて出来ることです。
   しかし、高嶋さんが僕に隠し事をしていたりすると、
   大切な駆け引きで、僕は間違った判断を下すかも知れません。
   その結果、つまらないことで裁判に負けてしまうでしょう。
   そういうことなんです。
   で、どうなんでしょう。

ヒナ:父は、横領はしていません。
   でも今のところそれを証明するはっきりした証拠もありません。
   その場合はどうなるんですか?

白石:「やっていない」だけでは裁判には勝てません。
   やはり客観的な証拠が必要です。
   こいつみたいに「UFOを見た」って言っても、
   証拠がないでは誰も信じてくれません。
   それと同じことです。
宮古:いや、ほんとに見たんだって。
   そのUFO、底に「龍角散」って書いてあってさ、
   川にごみを捨てていたら、怒った龍に食われてさ、

白石:はいはい。
   どうせなら、もうちょっとましな嘘をつけよな。
宮古:嘘じゃないって。
白石:とにかくですね、高嶋さん。
   こちらと同様に、原告にも証拠がなければ
   裁判所に調停してもらって折半することもできますが、
   しかし向こうには、高嶋元園長による横領があったことを立証できる証拠は、
   いろいろとあるようですから。
ヒナ:そんへん、先生のお力でうまくやっていただいて、
   市と和解するという方向にもっていけませんか?

白石:えと、和解ですか?
   横領も懲戒免職も認めないけれど、その証拠がないので
   いくらかは支払ってもいいと。
ヒナ:ええ、そうです。
宮古:ヒナ?
   いいのかよ、それで。

白石:宮古は黙ってろって。
   ・・・和解、ですか。
   市は裁判で勝てるつもりでしょうから、こちらから和解を言い出しても
   のってくるかどうか。
   向こうにそのつもりがあれば、いきなり地裁に訴えずに、
   まず簡易裁判所で調停の手続きをとってきたはずです。
   
   ・・・こうしましょう。
   まずは、横領など断固認めないと強気で答弁書を書いて、
   第1回期日でこちらの無実の主張を裁判官に聞いてもらい、
   その上で第2回期日か3回期日あたりで和解を申し出るのが妥当ではないかと思います。
   そのほうが多少は有利に事を運べるかもしれません。
   個人よりも市のほうが強い立場にありますし、
   無実を信じるこちらがあえて和解を望んでいる以上、
   裁判所も市に和解を勧めてくるでしょう。
   ただ和解できたとしても、
   支払う金額は半額ですむというわけには行かないと思いますよ。
ヒナ:お任せします。
白石:わかりました。
   では次に行きましょう。
   請求の原因についてですが、認めるところ、
   認めないところ、知らないところをお聞きしますから、
   答えてください。それをもとに答弁書を書きます。
   まず、被告・・・高嶋さんのことですが、
   お父さんは水族園の前の園長で、お亡くなりになった後にその財産を全て相続した、
   これは認めますか?
ヒナ:はい。
白石:全て相続を?
ヒナ:相続人は私一人でした。
白石:こういった準備書面にしても法廷での弁論にしても、
   一度「認める」と言ったことに関してはあとで訂正できません。
   「認める」と言うときはよくよく気をつけないといけないんです。
   でも、まあこれは問題ないでしょう。
   え〜それから、次ですが、
   高嶋氏は園長として水族園に勤務しているときに、
   その地位を利用して運営予算の一部である、金四千二百万円を横領した。
   これは・・・・・・
ヒナ:認めません。
白石:そうでしょうね。
   知らない、つまり「不知」としても、認めないのと同じですが、
   後の和解のことを考えると、ここは断固認めないとしたほうがいいでしょう。
   このあとに書かれてあるのは横領がなされたことを前提としたことですから、
   懲戒免職も退職金返還も全部認められませんね。
ヒナ:はい。
白石:わかりました。
   私は今日はこれで帰ります。
   明日までには答弁書を書いてきますから、
   その上でもう一度お話しましょう。
   今月末までに送れと書いてありますが、
   実はこれ、裁判当日でもいいんです。
   まだ日にちはありますから、今日のところはゆっくりお休みください。
ヒナ:ありがとうございます先生。
   玄関までお送りします。

白石:それはどうも。
   じゃあな、宮古。
宮古:おつかれさん。


ヒナ:ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・

宮古:ヒナもお疲れ様だったな。
   普段から先生のことは知ってるけど、あんなに真面目そうなのは見たことないよ。
   やっぱりプロなんだねえ。

ヒナ:でも帰り際に、もう一度あたしを眺めて「いい」って言って帰ってったよ?

宮古:ああ、それは普段どおりだ。

ヒナ:コーヒー、おかわり入れようか。
   ちょっと待ってて。

一服

宮古:ところで、なあ、ヒナ。
   和解っていってたけど、どういうことなんだ?
   園長の無実を晴らすんだろ?
   和解したんじゃあ、白黒はっきりしないじゃないか。

ヒナ:でもさ、
   そのための掛け金は、今のあたしの全財産だよ。
   この家だって車だってなんだって、こないだ差し押さえられたものは、
   裁判に負けたらぜ〜んぶ競売にかけられて、
   他人のものになっちゃうんだよ。
   でしょう?
宮古:・・・ああ。
ヒナ:だからね、
   これからのことを考えたらさ、パパの無実よりも、
   そういうのをいくらかでも手元に残す。
   そっちが大事じゃないかな。
宮古:そりゃ、そうだけどさ・・・
ヒナ:・・・・・・うふふふっ。
   っていうふうに、
   あの先生には言っておいてね。
   わかった?
宮古:はあ?
ヒナ:いまのはうそ〜。
   漆木さんと相談して決めたんだ。
   彼女が言うには、
   このまま裁判になったらすぐに判決が出て、
   間違いなくあたしが負けるだろうって。
   だから途中で和解案を出して、裁判を何ヶ月か引き延ばして、
   証拠を集める時間を多くしよう、ってことにしたの。
宮古:証拠が集まらなかったら?
ヒナ:そのときはそのときよ。
   でも何もしなくてもやっぱり裁判には負けるんだから、
   いまさら失うものは何もないでしょう。
   もう訴えられちゃったんだから。
宮古:ああ、そうだな。
ヒナ:いまは「なんとかなる」ってことを信じて
   頑張るときだよね。
   不安だけどさ。
宮古:ヒナ・・・。
ヒナ:なあに。
宮古:ヒナ、最近ちょっと変わったな。
   なんていうか、しっかりしてきたっていうか、
   ・・・強くなったっていうか。
   そんな気がする。

ヒナ:ん?そう?
   ・・・もしかして惚れた?
宮古:バーカ。
   なにいってんだ。

ヒナ:じょ、・・・じょーだんだよ。
宮古:んなことわかってるよ。
ヒナ:・・・・・・・・・・・・・。
宮古:でも、何で今のことが白石先生に秘密なんだ?
   先生にも協力してもらえばいいじゃないか。
   隠し事は困るって言ってたし。

ヒナ:これも漆木さんの言うことなんだけど、
   裁判はね、ホントは引き延ばしちゃいけないんだって。
   裁判所の数も弁護士の数も限られているのに次から次へと訴訟は起きるから、
   できるだけスピーディーに裁判を処理していかないといけないし、
   裁判所も弁護士も、そうできるように努力しているんだって。
   その為にこの間、民法が一部改正されたそうだよ。
   だから、和解の申し出が引き延ばし作戦だってことは、
   弁護士さんには黙っておいたほうがいいんだって。
   言っても阻止しようとされるかもしれないし、
   心象も悪くなるからって。
宮古:そうか・・・。
   嘘は嫌いなんだけど、これは俺が責任取れる問題じゃないからな・・・
   まあしょうがないか。

ヒナ:ごめんね。
   モト君には本当のことを知っててもらいたかったの。
宮古:漆木さんて言ったっけ。
   その人っていったい何者なんだ?

ヒナ:詳しいことは知らないよ。
   話したがらないし、あたしもあんまり聞かないし。
   でも何者だっていいじゃん。
   会って話して、いい人だって確信できたから、
   あたしは彼女を信じられるよ。
宮古:そういうものかね。
   まあ、そのうち俺にも会わせてくれよな。

   さってっと、じゃあ、
   おじさんもそろそろ帰るかな。
   コーヒーご馳走様。

ヒナ:あ・・・・・・
   もう帰っちゃうの?
宮古:うん、ちょっと用事が・・・・・・
   そうだヒナ、買い物付き合ってくれないか?

ヒナ:一緒に?
   いいよ、いいよ♪
   何買いに行くの?
宮古:それがさ〜、俺のお姫様、「もう怒ってないよ」って言いながらも、
   やっぱりご機嫌ななめなんで、軽くプレゼントでもしようかと思って。
   だからヒナに、どんなのがいいか・・・

ヒナ:・・・やっぱヤダ。
   あたし行かない。
宮古:え、何で。
   今行くって・・・

ヒナ:い・か・な・い!
宮古:ま、いいか。
   裁判のことは白石に任せて、少しゆっくりするといいよ。
   じゃあな。

ヒナ:うん。・・・バイバイ。

(ドルン・・・ガロロロロロロ・・・・・・)

ヒナ:ま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ったく!
   なにが「俺のお姫様」よ。
   ばっっかじゃないの!?
   浮かれちゃってさ、あ〜ヤダヤダ。
   その暇であたしにバースデープレゼント買えっつーの。
   
   あ、でも一緒に行って超ダサイプレゼント選んで、
   彼女がモト君に愛想つかすように仕向けるっていうのも
   面白いかもしれなかったな。
   顔が歪んでて偽物にしか見えないミッキーの貯金箱(でも本物)とか、
   オルゴール付きの宝石箱(曲:マイウエイ)とか・・・
   ん〜〜、いやいや、ちょっと邪悪かしら。

   ・・・さてと、
   うるるんに電話しなきゃ。
   えっと・・・・
  (ピピポポピピポピ)
  (テュルルルル・・・カチャッ)
ヒナ:あ、もしもし?
   うるるん?

カチカチ

  (・・・カチッ・・・カチカチッ・・・
   プツッ・・・プルルルル・・・プルルルル)

ヒナ:おっと、まだか。
   (プルルルル・・・プルルルル・・・)
漆木:(カチャ)
   ハイもしもし。
   ヒナ?

ヒナ:そうだよ。
   今、弁護士さん帰ったよ。

漆木:そう。
   今日は行けなくてごめんなさいね。
   で、どうだった?

ヒナ:和解したいって言ったら、それは2回目以降にしたほうがいいって。
   それでいいよね。

漆木:間違いなく和解のことをいったのね。
   ほんとね。

ヒナ:ちゃんと言ったよ〜。
漆木:大事なことなのよ。
   絶対ね?

ヒナ:もう、超絶対!
   これで証拠調べの時間が稼げるね。

漆木:・・・そうね。
   今こっちは訴状と一緒に送られてきた証拠書類のコピー、
   途中まで読ませてもらってるところよ。
   ここから突破口が開けるといいんだけど。

ヒナ:経理の書類ってよくわからなくて。
   うるるんてすごいね。

漆木:誰にでも取り得のひとつはあるわ。
   でね、ヒナのお父さんの書いたメモがあったでしょう。
   その通りに予算が組みなおされていたっていうやつ。
   そのメモと、誤魔化された部分の帳簿を照らし合わせてるんだけど、
   これ、なかなか面白いわよ。

ヒナ:えっ?
   ・・・もしかして、メモの通りじゃなかったの?

漆木:ううん。
   書類を見たところ、確かに、
   もう見事なくらいその通りに組まれているわよ。

ヒナ:じゃあ、ぜんぜん面白くないよ。
   そんなことは知ってるしさ。

漆木:ん〜〜、じゃあ、こう言ったら面白いかしら。
   ヒナのお父さんが自分で横領の計画を立てて、
   どう誤魔化すか考えるだけの才覚があったなら、
   走り書きしたのメモの通り、忠実に誤魔化すかしらってことよ。
   書類を見る限り、誤魔化し方なんてほかに幾通りもあるわ。
   メモに書いたって、実際に操作するときに臨機応変に変えることだってありうるし、
   一箇所くらいそういうところがあってもいいはずだわ。
   でもね、操作は隅から隅まできっちりと、メモそのまんま。
   これ、ちょっと不自然よね。

ヒナ:・・・そうね。
   でもそれってどういうこと?
   あの字はたしかにパパの字だったよ。
   鑑定結果どうこうよりも、娘のあたしが保障する。

漆木:まあまあ、
   もうちょっと時間をちょうだい。
   少ししたら体が空くから、そしたら身を入れて取り組めるから。   
   今は忙しくてね。

ヒナ:ごめんなさい。
   ホントにありがたいって思ってるよ。
   あの、あたしにできることがあったら言ってね。
   何でも手伝うから。

漆木:・・・その言葉、忘れないでよ。
   そのうち手伝ってもらうわ。
   じゃあ、忙しいから今日はこのへんでね。
   バイバイ、ヒナちゃん。

ヒナ:うるるん、さよなら。
   (ピッ)
   



 
     
 
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