11月4日(土)


めびな:警察の方、ですか?
 菅井:県警の菅井です。
    後ろにいるのは、部下の桜井です。
    本日、この3人でお宅を家宅捜索しますので、ご協力お願いします。
めびな:・・・・・・家宅捜索?
    あの、何かの間違いじゃないんですか?
    ウチは、高嶋ですけど・・・・・・?
 菅井:ええ、高嶋さんで間違いありません。
    (カサカサ)
    これが裁判所からの捜索差押許可状です。
    ”被疑者名”と、中央下の”捜索すべき場所”のところを見てください。
    こちらで間違いありませんよね。



めびな:ええ、でもこれ、・・・父の名前ですが、
    どういうことでしょうか。
    父はもう半年も前に亡くなってますけど。
 菅井:これは生前にお父様が犯したと思われる犯罪についての捜査なんです。
    お勤め先だった市営水族館のお金を横領した疑いが、
    お父様にかかっているんですよ。
めびな:横領?
    そんな。
    父がそんなこと・・・・・・
 菅井:これはあくまで捜査ですから、まだお父様が罪を犯したと決まったわけではないですし、
    私達もそう思っているわけではありません。
めびな:一体、なんで父が横領なんてしたことになってるんですか?
    何の根拠があってですか?
 菅井:すみませんが、そういうことは教えることができません。
    でも、そもそもこの件は水族館のほうから訴えがあったことなんです。
    それ相応の証拠書類があると聞いております。
    そうでなくては、私達は動かないんですよ。
めびな:そんな・・・・・・
    そう・・・なんですか。
 菅井:そういうことですので、
    中、よろしいです?
    捜索しないといけないので。
めびな:あ、すいません。
    どうぞ。
 菅井:失礼します。


 菅井:さっそくですが、お父様の持っていたお金に関する書類をすべて、
    警察のほうに移します。
    それと、コンピューターはお持ちでしたか?
めびな:はい。私と、父とで一台づつ。
 菅井:ではディスクなどの記憶媒体も持っていきます。
    それとお父様のコンピューターのハードディスクと、
    申し訳ないけど、あなたのコンピュータのハードディスクの内容を
    コピーさせてもらいますね。
    プライバシーは守りますからご安心ください。
めびな:・・・・・・はい。
    えと、ここが父の部屋です。
    書類やなんかは全部ここにあるはずです。
 菅井:どうも。
    では私達はここを調べますからしばらく待っててください。
    家の中にいてもらわないと困りますけど、
    電話などはしても構いません。
めびな:あの〜〜・・・
 菅井:なんでしょう。
めびな:父の部屋はできるだけ生前のままにしておきたいので、
    あまりいじらない欲しいんですけど・・・・・・
 菅井:お気持ちはわかるけど、その約束はできません。
    とにかくすべて、資料になりそうな物のありそうなところを捜索するので、
    どうしても散らかってしまうんです。
めびな:・・・・・・そう・・・・・・ですか。
 菅井:悪いけど、これはどうしてもしないといけない事ですから。
めびな:・・・・・・じゃあ、あたしは下の居間にいますから、
    何かあったら呼んでください。
 菅井:わかりました。

          ・
          ・
          ・
(キィ・・・バタン)
めびな:ふはぁぁぁぁぁ〜〜〜。
    もぉぉー、どういうことよこれ!?
    パパが横領なんてするはずないじゃない。
    なんでそういう事になるのよ、バカバカしい!
    ウチはそんなにお金に困ってないっつーの。
    まあ、ちょっと調べればパパの無実なんかすぐに証明できるんだろうけど・・・・・・
    それにしてもヤダなぁ〜。
    知らない人の手でパパの部屋をいじられるのは。
    せっかくあのままにしておこうと思ってたのに・・・・・・。

    それにしても警察って、あんな紙切れ一枚で人の家に上がり込んで、
    いろんな物を持っていけちゃうもんなんだね。
    テレビじゃよく見るけど、実際自分の身に降りかかってみると、
    なんだか理不尽な気がするな〜。
    
 電話:テュルルルルルル・・・・・・
    テュルルルルルル・・・・・・
めびな:(カチャ)
    はい、高嶋です。
 記者:もしもし、赤日新聞のものですが・・・
めびな:うちは新聞は結構で
    (ぴっ)
    す〜。
 電話:テュルルルルルル・・・・・・
    テュルルルルルル・・・・・・

めびな:(カチャ)
    はい。
 記者:新聞の勧誘じゃないですよ。
    お聞きしたいことが二三ありまして。
    あなたは元市営水族館館長の高嶋氏のお嬢さんですよね。
めびな:・・・ええ。
 記者:おとうさんが市の施設のお金を4千万円横領していたってことについて、
    お嬢さんとして、どう思われますか?
めびな:だから、父がそんなこと・・・・・・よ、4千万円?
 記者:そうです。
    ご存知ないですか。
めびな:ち、父がそんな事するはずありません。
    きっと何かの間違いです。
 記者:やってないって〜、何かこう、根拠のある話なんですか?
めびな:こ、根拠っていうほどの事は・・・・・・
    あと、市営水族館じゃなくて、市営水族園ですけど。
 記者:あのですねぇ、水族館のほうでは、お父さんが以前使っていた机から
    お父さんの字で書かれた、横領の事についてのメモを見つけたそうですが、
    それはどう思いますか?
めびな:父の・・・・・・字で?
 記者:”どこどこの予算からいくらを流用”とか、”どこどこから穴埋め”とか、
    そういう事が書かれたメモらしいですよ。
    警察の依頼した筆跡鑑定の結果、それがお父さんの字だと判明して、
    それと水族館の運営予算が実際に横領されているという事実とあわせて、
    それで警察が動いてるんです。
    そのことについて、どう思われるかお聞きしたいんすけど。
めびな:どう思うかっていわれても・・・・・・。
    私は父を信じてますから。
 記者:そうですか。
    まあお気持ちはわかりますが。
    えー、それとですねー・・・・・・
めびな:ごめんなさい、今警察の人が呼んでいるので、
    これでしつれいしま
    (ぴっ)
    す〜・・・。

    ・・・・・・な、
    なんだって?
    パパの字で書かれたメモ?
    それって、パパが横領したっていう確かな証拠になっちゃうのかなぁ。
    あの菅井さんって人、そんなことひとことも教えてくれなかったじゃん。
    ってことは、やっぱり警察はパパのことを疑ってるってこと?
    ・・・あ〜あ、どうしたらいいんだろう。
    パパが生きていてここにいれば、ほんとの事を聞けるのになぁ。
            ・
            ・
            ・

テラス

 菅井:これは押収品目録交付書。
    ここに書かれた物を警察のほうに移させてもらうわね。
めびな:こんなにですか。
    ・・・はい。
 菅井:これから私の質問に答えてくれるかしら。
    これは捜査に関係があることなので、嘘偽りなく、
    答えて欲しいの。
めびな:・・・はい。
 菅井:お父様がお亡くなりになって、
    どのくらいになるのかしら。
めびな:もう半年くらいになります。
    命日は5月3日です。
 菅井:生前、何か大きな買い物をなさったか、
    覚えはありませんか?
めびな:この家も、車も、ずっと前から持っていたものですし。
    しいて言えば、パソコンと、ダイビング用具でしょうか。
    両方でせいぜい100万円くらいだと思いますけど。
 菅井:では、賭け事、競馬やパチンコなどのギャンブルは?
めびな:父はそういう遊びはむしろ嫌いなほうでした。
    やっていなかったと思います。
 菅井:先物取引や株の売買、サイドビジネスなんかをやっていらっしゃった?
めびな:・・・いいえ。
 菅井:こんな事を娘さんのあなたに聞くのは心苦しいんだけど、
    女性から電話がかかってきたり、
    誰かとどこかに出かけるなんて言うことはなかったかしら。
めびな:私が知るかぎりでは・・・ないです。
    
 菅井:・・・なるほどね。
    どうもありがとう。
    こちらで人から聞いたかぎりでも、
    お父様は大変真面目なかただったようね。
めびな:・・・そうですね。
    何が面白くて生きてるんだろう、
    なんて思ったこともありましたけど。
    ・・・・・・ああ、
    高価な買い物っていうわけじゃないんですけど、
    遺産処理のときに私も初めて知ったんです。
    父は山を所有していたんです。
    この山も、見積もりによると80万円くらいだそうですから、
    たいした価値はないんでしょうけど。
 菅井:山・・・山ねぇ。
    この価格だと、これはよほど辺鄙なところにあるのね。
めびな:たぶん。
    行ったことがないのでわからないんですけど。
 菅井:・・・・・・・ふーーむ。
めびな:あの、この山がどうかしたんですか?
 菅井:いえ、・・・・・・なんでもないわ。
    この家の家具、どの部屋のも値段の張りそうな物ばかりだけど、
    これはお父様の物だったの?
めびな:これは・・・おじいちゃんの物だったのを、父が相続した物です。
    いくつかは父が買い足したものですけど。
 菅井:そう。
    ほんとに素敵な家具ね。
めびな:父も大事にしてました。
    ・・・それで〜、その〜、
    さっき新聞記者のひとから電話があって、
    父の机からメモが見つかったって聞いたんですけど、
    それってどういうのなんですか?
    やっぱり・・・・・、父が横領をしたんでしょうか。
 菅井:ああ、・・・聞いてしまったの。
    まあ、記者が知っている事ならいずれ耳に入る事だったんでしょうけど。
    そうなのよ。
    水族園の予算をどう動かして、どう誤魔化すか、
    かなり事細かに書かれた文章よ。
    そして実際に帳簿とてらしあわせた結果、
    ほぼそのメモの通りに予算が組まれていたわけ。
    その処理の中には、園長の権限でないとなされない事も含まれていたから・・・・・・
    と、そういうことなのよ。
    お父様以外で横領をできた立場の人はいないの。
めびな:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 菅井:お父様が無実であるという確かな証拠でも見つからないかぎり、
    警察としては、横領は高嶋氏の仕業と判断せざるをえないわね。
    高嶋氏はもうすでに亡くなっているから、このままいけば最終的には不起訴になって
    この事件は終わると思うわ。
めびな:・・・・・・・・・もう、ほとんど決まりってことですか。
 菅井:ここまで状況証拠が揃っていると、あとは詰めの段階といえなくもないわね。
    メモ以外のきちんとした物的証拠があれば決まりでしょう。
    最後に、警察官としてではなく、
    個人的にあなたに忠告しておきたいんだけど。
めびな:・・・・・・・・・・はい。
 菅井:水族園から横領された金額は、今わかっているだけで4千万円くらいなの。
    水族園側は、おそらくその4千万円の全額返還を求めてくるはずよ。
    もしそれが不服なら、民事裁判で水族園と争う事になるし・・・・・・
    だから、なんにしてもこれからいろいろ大変な事になると思うの。
    今からその備えはしておいたほうがいいと思うわ。
めびな:お金・・・・・・。
    そうですよね。
    返さないといけなくなるかもしれないんだ・・・・・・。
 菅井:まだそうと決まったわけではないけど。
    でも、今あるお金はできるだけ残しておいたほうがいいわね。
めびな:・・・はぁぁぁ〜〜〜〜。
 菅井:それでは私達は署に戻るわね。
    この件でなにかあったら、この名刺の番号に電話して。
めびな:・・・はい。
 菅井:じゃあがんばってね。

(バタン、バタン・・・ドルルルルルルルルル・・・・・・・)

めびな:これからどうなっちゃうんだろう・・・・・・。
    4千万円か。
    パパがあたしに残してくれたお金もそれくらいだったな。
    サイアク、それを渡せばいいか。
    そうなったら学校辞めなきゃいけないかもね・・・・・・。
    はぁ。
    あっそうだ、パパの部屋、散らかされてないかな。

(ガチャッ)
めびな:うああ、なんか雑然としてる・・・・・・
    もう”パパが生きていた頃のまま”って事にはならなくなっちゃったな。
    あのままにしておきたかったな・・・・・・
    刑事さん達、あんまり散らかさないようにはしてくれたみたいだけど、
    それでも部屋中が前よりもだらしない感じ。
    ・・・・・・きちんと片づけようか。
    この先どうなるかわかんないけど、ひとつひとつ、
    きちんとやっていけば、きっとなんとかなるよね。    

 電話:プルルルルルル・・・・・・
    プルルルルルル・・・・・・
めびな:ん。
    (カチャ)
    ハイ、高島ですが。
 記者:どうも、共導通信社のものですが、
    高嶋元園長のお嬢さんの女雛さんですよね。
    水族園側は夕方の記者会見で横領は高嶋氏の犯行である可能性が高いと、
    発表する予定だそうです。
    それについて、何かコメントはありませんでしょうか。
めびな:(あちゃ〜、また取材だよ)
    コメントって言われても・・・・・・。
    警察の捜査の結果がまだ出てませんので、
    何とも言えません、です。
    ・・・失礼します。
 記者:あ〜、あともうひと・・・
    (カチャ・・・プーッ、プーッ)
めびな:・・・・・・みんながパパが横領したと思ってる。
    証拠が揃ってるって事なんだろうな。
    ・・・・・・あたしはどう思ってるんだろう。
    パパがやったとは思ってないけど、
    やってないとも言い切れない・・・・・・
    根拠なく、自分のパパだから、信じたいから信じるなんて、
    バカみたいなのかな。

 電話:プルルルルルル・・・・・・
    プルルルルルル・・・・・・
めびな:はぁ〜。
    また新聞記者だったら嫌だな・・・。
    居留守使っちゃおうかな。
    あと2〜3回鳴れば居間の親機の留守電につながるし。
 電話:プルルルルルル・・・・・・
    プルルルルルル・・・・・・(カチャッ、ピー)
めびな:これでよし、と。
    さっさとパパの部屋かたしちゃお。
    ・・・・・・なんでCDラックまで散らかるのかな。
    こんなところ探したって書類なんか・・・
    ああ、CD−ROMを隠してるかもしれないと思ったのか。
    (カタ・・・カタ・・・)
    チャイコフスキーか。パパ、これ好きだったな。
    クラシックなんて音楽の授業で聞いたきりだよね。
    ・・・このCD、今晩寝る前に聞こうかな。
    たぶん、今日はそう簡単に寝付けないだろうし。
            ・
            ・
            ・
めびな:やっとかたずいた〜。
    あっ、もうこんな時間?
    夕方のニュースの時間じゃん。
    テレビテレビ・・・・・・。(ピキュン)
    
ニュース:・・・元園長が水族園の運営費用を3年間で約4千万円を横領した疑いです。
     この高嶋元園長は平成7年からこの市営水族園の園長を務め、
     今年3月に退職しましたが、
     5月に水難事故で他界しています。
     この横領事件の容疑者が既に死亡していることから、
     県警は水族園と高嶋氏の自宅を家宅捜索して得た資料をもとに、
     今回の横領事件の実体を明らかにするものと思われます。
     それでは次のニュースです・・・・・・。
めびな:・・・容疑者って言うより、もう犯人扱いみたいじゃない。
    ひどいなぁ・・・。
    何はともあれ、これで周知のことになっちゃったね。
    ・・・・・・あ、そういえばさっきの電話って誰からだったんだろう。
    えと、再生と。
 電話:(ピーッ)
    もしもし、宮古です。
    もう電話するなっていわれてたけど、今度の事で心配だったんで、
    電話しました。ん〜、・・・また電話します
(ピーーッ)
    ゴゴ5ジ32フン(ピー)

うれしいヒナ〜

めびな:モト君・・・・・・だったんだぁ。
    電話、出ればよかったな。
    ・・・また電話するって言ってたけど、いつなんだろう。
    くれるんなら早くくれればいいのに〜。
    って、
    ・・・居留守使って電話に出なかったのはあたしか。
    悪いことしちゃったな。
    (カチャ)
 電話:(ピーッ)
    もしもし、宮古です。
    もう電話するなっていわれてたけど、今度の事で心配だったんで、
    電話しました。ん〜、・・・また電話します
(ピーーッ)
    ゴゴ5ジ32フン(ピー)
めびな:ふふふ。宮古ですだって。
    留守電だからって、な〜んで敬語になるんだろう。
    今時そんな人いないよ?
    それに・・・・・・、
    あの時もう電話するなって言ったけど、
    でも、ほんとは電話して欲しかったんだよな・・・。
    あたしのことが心配なら、ああ言われても電話くれるかもと思ったけど、
    言葉を額面通りに受け取っちゃったか。
    まあ、そういう人だもんね、モト君は。
    ・・・・・・それでも
    今日は電話くれたんだ。
    嬉しいな。
    
 電話:テュルルルルルル・・・・・・
    テュルルルルルル・・・・・・
めびな:きたっ!
    で、でもまた記者だったら・・・・・・
    ん〜、それでもいいや。
    (カチャ)
    はい。
 宮古:・・・あ、ヒナ?
めびな:モト君!
 宮古:いや、電話するなっていわれてたけど、
    ちょっと心配でさ。
めびな:いいよ。それはもう。
    そっちはどうだった?
    警察が来て大変だったでしょ。
    ニュース見たよ。
 宮古:まあな。
    そっちこそ、家宅捜索されたんだろ?
めびな:うん。
    お父さんの部屋から、書類からディスクから何から
    ぜ〜んぶ持ってかれちゃった。
    せっかく、お父さんが生きていたときのままにしておいたのにさ。
    なんか、あたしとお父さんの大切なものを土足で踏み荒された感じ・・・。
    つらかったよ。
 宮古:そうか・・・。
    ヒナ、大丈夫か?
めびな:うん。大丈夫。
    ・・・大丈夫だけど、こ、こうやってモト君と話、して、・・・たら、
    なんか・・・・・・(ポロッ)
    なんか・・・・・・さ。(ポロポロ)
    (やだ、涙出てきちゃった・・・・)
    うっうっっ・・・・・・・・・・・・・。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 宮古:・・・ヒナ?
めびな:(やだなぁ、感情が高ぶってくると涙が出てきちゃうよ。
     子供じゃあるまいし。)
    ちょ、ちょっと待ってて。
    テッシュ・・・・(シュッシュツ)
    (ブシーーーーーーッ)
    はあ。
    なんでもないよ。
    ハナミズ出てきちゃっただけだから。
 宮古:おまえなぁ〜。
めびな:すぅ〜〜・・・はぁ〜〜〜・・・
    (泣いてるなんて、モト君に知られたくないもんね)
    ここんところ急に冷え込んだからかな。
    あはは。
 宮古:ヒナはどう思う?
    ほんとに高嶋園長が横領したのかな。
めびな:うん。
    やってないって信じてたけど、
    でもいろんなこと聞いて、よくわかんなくなった。
    モト君は?
 宮古:俺も・・・わからないんだ。
    以前なら信じられたけど、あの水中銃の一件以来
    園長に対する俺の評価って変っちゃっててさ。
    展示している生き物にあれだけ愛情を注いでいた園長が、
    一人のときには魚を獲物として追うのを趣味にしていたなんてさ。
    人にするなといっていた事を、俺らのいないところでやっていたってのが、
    裏切られたっていうか、そういう気がしてな。
めびな:今日、思ったよ。
    ・・・あたしが知らないところであたしにお構いなしに、
    パパとあたしに関する事がどんどん決められていくみたいだって。
    あたしが部屋の片づけをしているあいだにも世の中は動いていて、
    あたしの知らないところでいろんな事が起こっていて、
    知らない間にいろんなことが決定されていたって。
    でも・・・・・・
    今までだって、世の中ってそうだったんだろうな。
    ただ、それが今までのあたしの人生には関係なかったから、
    今日まで見えなかったし、気にもしなかったんだ。
    ・・・うまく言えないけど、
    あたしが”この世の中はこういうものだ”って思ってたその世の中は、
    結局あたしに見える範囲のものでしかなかったんだよね。
 宮古:人一人の世界なんて狭いもんだからな。
めびな:でさ、あたしに見えてたパパは、真面目な優しいパパだったけど、
    でも、あたしが見てないところでもパパは真面目で優しかったのかな。
    ひとりで海に潜って、やっちゃいけないことをしていたっていうし、
    そして今度は、水族園のお金を横領したっていうしさ。
    私が知っているパパと、知らなかったパパ・・・・・・
    どっちが本当のパパなのかな?
    ・・・・・・どっちも本当なの?
    モト君。
 宮古:俺に言えるのは、
    園長は俺の前でも真面目で優しい人だったってことだけだよ。
    けど、どっちも本当の園長、
    ・・・・・・だったのかもな。
めびな:ん・・・・・・・・。
 宮古:ところでその、今の園長はヒナから4千万円全額返してもらうつもりらしいけど、
    どうなんだ?
    そっちも大丈夫そうか?
めびな:うん。
    多分。
    遺産相続した分でそれくらいあるから。
    ・・・すんなり返すかどうかはわからないけどね。
    つまり裁判って事だけど。
 宮古:そだな。
    弁護士さんに相談して、裁判所に間に入ってもらったほうがいいかもな。
    示談して、うまくいけば全額返さなくても良くなるかも。
    市のほうでも、支給した退職金の返還を求める方針らしいけど、
    こっちはこっちで裁判しないといけないし、
    これから大変だな。
めびな:・・・・・・え?
    退職金も?
 宮古:横領をした職員には退職金は支払えないだろう。
    免職扱いになって、退職金は返還させられるって、
    さっきニュースで市長が言ってたじゃん。
めびな:そっ、そうだよね。
    わかってるって〜。
    そうするとたして6千万円くらいかなぁ。
    ま、まあなんとかなるっしょ〜。
 宮古:うん。がんばってな。
    俺で力になれることがあったら、何でも言ってくれよ。
めびな:とりあず2千万円くらいちょうだい。
 宮古:あ〜〜〜・・・
めびな:冗談だよ〜。
    ・・・電話ありがとうね。
    とっても嬉しかったよ。
 宮古:なんだよ、改まっちゃって。
    じゃあな。
めびな:うん。バイバイ。

 (プッ・・・プーッ・・・プーッ・・・)
めびな:う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    そっかー、退職金もかぁ。
    そうなるとヤバイかなあ。
    6千万円はないもんなぁ。
    これは・・・もう学校行ってる場合じゃないかなぁ〜。
    学校辞めて、どこかお勤めに出ないと生きていけないかも・・・。
    はあぅ〜〜、ヒナちゃんピーンチ。
    このご時世に就職先なんて、そうそうあるかよ〜。
    なんだかおなかが重〜くなってきた・・・。
    うう・・・・・・つらいな。
    
 電話:テュルルルルルル・・・・・・
    テュルルルルルル・・・・・・
めびな:・・・電話、出ようかな。
    どうしようかなぁ。
    ・・・・・・もう、誰でもいいや。
    (カチャ)
    はい。
 声 :あ〜の〜、
    すいません、つかぬ事をお伺いしますが、
    ・・・ど・・・どちら様でしょう。
めびな:な、なに言ってんの、
    電話掛けてきたのはそっちでしょ!?
 声 :いやその、お姉ちゃんがイキナリ「この人、呼んでる」って、
    パカパカとダイヤルキー押してあたしに電話渡したもんでぇ〜〜・・・・・・
    ちょっとぉお姉ちゃん、誰に電話したのよ!
    ・・・わかんないって・・・・・・
    なーなんでいっつもそうなんだいや〜!
めびな:リコさん?
    ペット探ししてたリコさん?
 声 :ああっ!?
    あのときのヒナちゃん?
めびな:久しぶり〜。
    ・・・でも、なんでうちの番号がわかったの?
 リコ:それは誰にも、
    本人にもわからないのよ。(笑)
    で、あたしら呼んだ?

お電話(リコ&ヒナ)

めびな:呼んだっていうか・・・・・・
    もしかしたら学校辞めて仕事しないといけないかもって・・・・・・
    あのぉ、
 リコ:辞めちゃうの?
    もったいないよ。
めびな:ねぇ、
    リコさん、あたしのこと雇える?
    なんちゃって・・・・
 リコ:今ちょうど、社員をもう一人募集しようかって話をお姉ちゃんとしてて・・・・・・
    あ〜、それでリンクが繋がったんだ。
めびな:リンク?
 リコ:あたしはその時ヒナちゃんのこと考えたからね〜。
    なるほどねぇ〜。
めびな:なにがよ?
 リコ:じゃあこんどこっちにおいでよ。
    いっぺん面接やろう。
    ヒナちゃんだって、仕事できればいいってわけじゃないでしょ。
    条件だってあるし。
    あ、履歴書持ってきてね。
めびな:いいの?
    うん!・・・じゃなくて、ハイ。(笑)
    場所を教えて。
 リコ:ええとね、岬本町のねぇ・・・・・・




 
     
 
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